サイズ
長 459.0 cm 幅 179.0 cm 高 147.0 cm
「WRX STI」といえば、1993年から2008年にかけてWRC(世界ラリー選手権)で活躍した「インプレッサWRX」のイメージをそのまま受け継いで、スバルの代表作であり日本車の中でも、その性能の高さから注目されたモデルとなっている。その「WRX STI」の代名詞ともいえる「EJ20型」エンジンの生産終了にともない2019年の東京モーターショーで発表されたのが「WRX STIファイルED」となる。生産台数は、WRC参戦時にスポンサーとなっていたブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)のタバコ銘柄「555」にちなんで555台となり、このモーターショー開催期間中に、購入優先権の申し込み受け付けが行われた。その倍率は20倍を超える程の人気となった。この「EJ20型」エンジンはスバルが「世界に通用する走り」を目指して、1989年に社運をかけて発表した「レガシィ」とともに誕生した、EJ型水平対向4気筒エンジンがベースとなっている。それまで主力エンジンであったEA型は1966年、スバル初の量産小型車となった「スバル1000」用として誕生し30年近く活躍し続けてきたが、基本設計が古くOHVエンジンとして生まれた事もあり、主にヘッド回りの改良が限界となっていた。また当時生産されていた「レオーネ」とはステージの異なる高性能を目指した「レガシィ」開発にあたり、エンジンも全面刷新する必要にも迫られていた。EJ型エンジン開発の指揮をとったのは、後のSTI(スバルテクニカルインターナショナル)の社長としても活躍する山田剛正。そして設計の全てをてがけたのは、こちらも後にSTI社長となる工藤一郎だった。EJ型エンジンの特徴は高剛性と高出力化への潜在能力の高さ、その上で水平対向エンジンの特徴である完全バランスによる振動の少ない滑らかな回転となる。これにより高回転型としやすくスポーツカー向きの素性を持っているといえるだろう。初代「レガシィ」では、当時2ℓエンジンとしては世界トップクラスの220馬力を発揮し「10万km世界記録挑戦」において、ほぼ市販車に搭載される「EJ20型」を用いて10万kmアクセル全開し続ける事により、驚異的な耐久性と高性能を実証した。1992年「レガシィ」に続いてデビューした初代「インプレッサWRX」では240馬力に出力を向上させ、英国プロドライブ社をパートナーとしてWRCに参戦。そのマニュファクチャラーズタイトル3連覇(1995年〜1997年)の偉業を達成する。2007年登場の3世代目「インプレッサWRX STI」では、それまでの280馬力の自主規制を越え最高出力308馬力にまで引き上げられるとともに、低中速域でのトルクを向上させる為、可変バルブタイミング機構(AVCS)を、吸排気カムシャフトに装備するようになった。更に性能の個体差や、熱ダレによる出力低下幅を少なくし、細部の改善・改質により、より安定した高性能化がはかられるようになった。WRC撤退と入れ替わるように2009年から本格参戦が始まった「SUPER GT選手権」や「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」用のレーシングカーのエンジンも「EJ20型」となり、シリンダーブロックは基本的に市販のモデルと同じものが使用されているといわれている。「WRX STIファイナルED」に搭載される、最後の「EJ20型」は「EJ20バランスドエンジン」とよばれ、水平対向DOHC4気筒16バルブ・ツインスクロールターボでボア・ストローク92.0mm×75.0mmの1994ccの排気量をもつ。吸排気ともにバルブタイミング機構(AVCS)を備え、8.0の圧縮比から308馬力/6400rpmと43kgm/4400rpmのトルクを発揮する。ピストンやコンロッド、クランクシャフト及びエンジンに直結するフライホイール/クラッチカバーといった回転部品の重量公差や回転バランス公差を量産モデルより少なく組み立てられ、レーシングエンジンに迫る精度をもつ特製エンジンとなっている。組み合わされるトランスミッションはクロスレシオの6速MTとなる。フルタイム4WDとなるドライブトレインの前後駆動配分は41:59となり、フル電子制御された「DCCD(ドライバーズ・コントロール・センター・デフ)」を備え、フロントにヘリカルLSD、リアに機械式LSDが組み合わされる。センターデフの「DCCD」はオートモードに加えロック率を任意に変更できるマニュアルモードを備え「ー」にする程、ターンインが鋭くクルマの動きは軽くなり、逆にロック率の高い「+」にする程コーナーではマイルド方向となりスタビリティが高くなる。︎足回りはフロント・倒立ストラット式となり、リア・ダブルウィッシュボーン式でビルシュタイン製ショックアブソーバーを備える。ブレーキは前後ベンチレーテッドディスクを備え、フロント・モノブロック対向6ピストン、リア・モノブロック対向2ピストンのブレンボ製キャリパーを装備する。ホイールはBBS製19インチ×8.5Jの鍛造アルミホイールとなり、タイヤは245/35R19サイズのヨコハマ・アドバンスポーツV105が組み合わされる。インテリアは各部にカーボン調の装飾パネルが備わり、ウルトラスエード巻きとされたシルバーステッチ入りステアリングホイールが専用装備される。そのステアリングホイールの奥には左に9000rpmまで刻まれた8000rpmからレッドゾーンとなる大径タコメーターが、右に280km/hまで表示された大径スピードメーターが備わる。また今回入荷した「フルパッケージ」モデルでは、ウルトラスエードと本革にシルバーステッチの組み合わされた専用レカロ製シートが装備される。このシートは運転席、助手席ともに8ウェイ・パワーシートとなる。更にアドバンストセーフティ・パッケージ(後側方警戒支援システム/自動防眩ルームミラー/フロント&サイドビューモニター)が備わり、ウェルカムライティングとよばれるフットランプが装備されている。そして各座席に備わるシートベルトは全てシルバーの専用品となっている。全長×全幅×全高は4595mm×1795mm×1475mmでホイールベースは2650mm、トレッド前1530mm、後1540mmとなる。車両重量は1510kg(フルパッケージ・モデルは10kg増となる)、燃料タンク容量60ℓ。新車時価格は「WRX STI EJ20ファイナルED」で452万1000円、「WRX STI
EJ20ファイルナルED フルパッケージ」で485万1000円となっている。メーカー公表性能値は「EJ20ファイナルED」ではなく同馬力表示となるノーマル「WRX STI」の数値として、0→100km/h加速5.2秒、最高速度255km/hとなる。カーグラフィック誌による実測データは2009年に「WRX STIスペックC」によるもので0→100 km/h加速5.3秒、0→400m加速13.7秒、最高速度250km/h以上となっている。最後の「EJ20型」エンジンによる「EJ20バランスドエンジン」と銘打たれたパワーユニットはレーシングエンジンにも迫る精度で仕上げられている。これによりノーマルでも充分にスムースな「EJ20型」エンジンが、更に美しいボクサーサウンドを奏でながらレブリミットまで吹け上がる、極上の回転バランスは最終モデルに相応しい魅力あふれるものになっている。クライマックスといえるのはトップエンドの1000rpmに訪れる。8000rpmという回転リミットは、それまでの「EJ20型」と同じでありながら、7000rpm付近から僅かに回転感に重さを感じるノーマル型に比べ「EJ20バランスドエンジン」は圧倒的に軽い回転感を味わえる。8000rpmのリミットまで軽々と回る、突き抜けるような回転感は極めて印象的なものとなる。このエンジンとあわせて乗り心地は硬めとなるものの、ショックアブソーバーのストローク感はとても滑らかで「フルパッケージ」仕様に含まれる専用レカロシートとあわせて、速度の上昇とともに快適とよべる高級感を感じられるものとなっている。またスバル伝統のフルタイム4WDドライブシステムも、電子制御クラッチやカップリングによるオンデマンド型4WDが幅をきかせるなかで、ドライバー自身で「DCCD」を切り替えながら走る事が出来るというのはとても貴重なものといえるかもしれない。路面の状況やコーナーの曲率の違いをセンターデフのロック率を変化させる事でクルマの動きがかわるのが、手に取るようにわかる。旋回重視とトラクション重視の狭間で自分のドライビングスタイルにピタリとあった瞬間をさがすのはとても楽しい時間となる。それを良く回るエンジンと、よりダイレクトな6速MTで楽しめるのはクルマ好きにとって至福の時となるかもしれない。ガソリンを燃焼させる事でエンジンの息吹きが感じられ、躍動感をともないながらレッドゾーンまで回す楽しみをあとどれくらい楽しめるのかわからないが、この楽しみを味わえるドライバーは僅か555人しか存在しない。「WRX STIファイナルED」はひとつの時代の集大成ともいえる内容を持った、数少ない国産モデルと言えるだろう。