サイズ
長 487.0 cm 幅 184.0 cm 高 147.0 cm
ワンオーナー車両、機関関係全て点検済、リフレッシュされております。
2004年10月のフランクフルトショーでデビューした「BMW M5」は、E28型ベースの初代「M5」から数えて4世代目となるモデル。「クーペ・フィアット」のデザインで知られるアメリカ人デザイナーのクリス・バングル率いるBMW社内デザインチームによるE60型・5シリーズセダンがベースとなっている。このE60型のデザインは、イタリアのカロッツェリア・ピニンファリーナ在籍中に「プジョー406クーペ」や「フェラーリ360モデナ」をデザインしたイタリア人デザイナーのダビデ・アルカンジェリによるものといわれている。ボクシーで端正なイメージのBMWセダンの中にあって、エモーショナルな曲線とナイフで削いだ様なエッジが交錯するデザインは、クリス・バングル時代の特徴となっている。ひとつ旧型となるE39型・M5でも5ℓ・V8・400馬力エンジンにより、充分なパフォーマンスを持っていたが、よりハイパワー化する競合他車を見過ごす事は出来ず、それを上回る更に上の性能が求められていた。前後重量配分50:50にこだわる程のBMW社は、当時の過給ユニットとするにはリニアなレスポンスに満足出来ず「エンジン屋」としてのメンツにかけて、安易な手法を選ばず高回転、高出力型マルチシリンダーエンジンという選択になったのだろう。背景にはF1用V10自然吸気エンジンを供給(ウィリアムズ・チーム)していた事もあり、このノウハウを活かしたV10・NAエンジンにたどり着く事となったのかもしれない。ライバルメーカーもランボルギーニ社が「ガヤルド」に、また同グループ内の「アウディR8」、そしてポルシェ社が「カレラGT」用にV10・NAエンジンを展開していた。これらのモデルはミッドシップ2シーターという、スーパースポーツばかりであるのに対しE60型「M5」は純粋な、正統派セダン。高性能を維持しながらも燃費をはじめ、より高い安全性、信頼性もトップレベルにある事が求められる。更にエミッションレベルを睨みながらグランプリマシーン並みの性能を持つエンジン開発が求められた。E60型「M5」のボディは遠目にはノーマル5シリーズと大きく変わるところは無く、良く見るとフロント・バンパーの中央とその両端に大きなエアインテークを持っているのに気が付く。サイドに回るとフロントホイールアーチ後方に専用エアベントを持ち、空力に優れたサイドミラーが目に入る。そしてリア・バンパーにはディフューザーとアンダーフラップ、4本出しのオール・ステンレス製の専用エグゾーストが備わる。「羊の皮を被った狼」そのものの控えめな静かさを讃えながらも、強いオーラを感じさせるものとなっている。設計原理や材質、組み上げ方など多くの点でF1用ユニットと共通性を持つS85型とよばれるエンジンは、シリコンを17%含有するアルミ軽合金ブロックをもつ、90°V型10気筒DOHC40バルブとなりM社の開発によるもの。ボア・ストローク92mm×75.2mmで4999ccの排気量をもち、圧縮比12.0から507馬力/7750rpmの最高出力と53kgm/6100rpmの最大トルクを発揮する。可変バルブタイミングとなるダブルVANOSはもちろん、レーシングカー並みの各気筒ごととなる10連・独立式電子制御スロットルバルブ、見た目も美しいハイドロフォーミングによるシームレス・ステンレス製・等長排気マニフォールドを備える。更に強烈な横Gにも音をあげないドライサンプ方式となり連続可変容量オイルポンプ4基を装備、大小ふたつのオイルパンを持ち、BMW M社の当時の最新技術の結晶ともいえるエンジンとなる。レブリミットは8250rpmとなり、8000rpm時のピストン移動量は毎秒20メートルとなり、この当時5ℓ以上のNAエンジンでリッター100馬力を超えるのはフェラーリ社の「エンツォ・フェラーリ」のエンジン(F140B型)だけといわれ、BMW M社の技術力の高さをアピールするものとなっている。驚異的なパワーを発揮しながらも従来のV8エンジンとほぼ同じ、エンジン単体重量は240kgに留められている。専用のエンジン工房で生産されるこのエンジンはそのパフォーマンスが認められ2005年、2006年と前人未到となる2年連続で、世界72か国の著名なモータージャーナリストの投票で決められるインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞している。このエンジンは、普通に始動するとP400モードとなり、これは最高出力400馬力という意味。それをATシフトノブ横に備わるパワーボタンで切り替えるか、ステアリングホイール上のMボタンで呼び出す事により、P500、及びP500プラスを選択出来る。組み合わされるセミオートマチック・ギアボックス=SMGⅢ(シーケンシャル・マニュアル・ギアボックスⅢ)は、電子制御によるクラッチの操作を油圧ポンプで行うシステムで、フェラーリはじめアストンマーティン、マセラティ、アルファロメオ
などスポーツカーメーカー各社が採用しているもの。驚くほどコンパクトな、ゲトラグ社と共同開発されたギアボックスは、従来のSMGⅡでは6速だったものが7速化され、シフトスピードも20%速められたばかりではなく、ドライブロジックと称する機能が盛り込まれた。D(オートマチック)モード5種、S(マニュアル)モード6種、の計11種のシフトプログラムが用意され、ギアセレクター後のスイッチで任意に設定可能となる。このセミオートマチックシステムではクラッチ摩耗が心配されるところだが、SMGⅢでは通常の使用状態なら20万キロ耐えられると発表されている。足回りは、オールアルミ製となるフロントにダブルジョイント式ストラット+コイル、リアはインテグラルアーム式+コイルでフロント・リアともにスタビライザーを装備する。ショックアブソーバーは電子制御式となるEDC(エレクトリック・ダンパー・コントロール)が備わる。ブレーキはフロントに374mm×36mm、リアは370mm×24mmのドリルド・ベンチレーテッドディスクが選択され、アルミ製となるフロントはダブルピストン・キャリパー、リアはシングルピストン・キャリパーがそれぞれ組み合わされる。Mモデルに伝統のBBS製となるダブル・スポークの19インチアルミホイールはフロント8.5J、リア9.5Jを備え、組み合わされるタイヤサイズは、フロント255/40ZR19、285/35ZR19となっている。新たに採用されたトルク感応式可変デフによるMディファレンシャルロックにより、エンジンパワーは余す所なく路面に伝えられる。スポーツ性は隠しきれずサイドサポートが深めとなるスポーツシートは、電動調整式でポジションメモリー機能も付く。変速用パドルを備えたMモデル専用の3スポークステアリングはやや太めとなっている。ステアリングの右側スポーク部にある「M」ボタンを押すことで様々な設定変更が可能となる。Mダイナミック・モードをセレクトすれば、ピークパワーの数値やDSCの作動レベル、更に電子制御スロットルのレスポンスやダンパーの減衰力まで切り替えられる。そのステアリングをとおして、正面インパネにはクローム・リングに囲まれた左に大径のフルスケール330km/hのスピードメーター、右に7750rpmからイエロー、9000rpmまで刻まれたタコメーターが並ぶ。タコメーターのイエロー/レッドゾーンは水温等の条件により変化するタイプとなっている。センターコンソールには、ギア・セレクターレバーが備わり、その後方には「i Drive」用となるダイヤルが装備される。これを使ってあらかじめ車両のセッティングを任意にチョイスしておき、ステアリング・スポークの「M」ボタンでそのセッティングを瞬時に呼び出す事も可能。ハイ・スペックのエンジンを活かす為の装備に囲まれたコックピットとなるが、しっかりとセダンとしての機能も疎かにしてはいない。「M5」の武器の最強のひとつとなるのは、普通に使える快適な後席といえるかもしれない。また、しっかりトランク容量も500ℓ確保されている。全長×全幅×全高は4855mm×1846mm×1469mm、ホイールベース2889mm、トレッド前1580mm、後1566mm、燃料タンク容量70ℓ、車両重量1830kg。最小回転半径6.2mとなり、新車時価格は1290万円。総生産台数は5年間で20589台、内訳はセダンボディが19564台、ワゴンボディのツーリング(E61型)が1025台となる。その中から約1400台弱が日本に上陸している。メーカー公表性能値は、0→100km/h加速4.7秒、0→1000m加速22.7秒、最高速度250km/h(スピードリミッター作動による)。カーグラフィック誌による実測データは、0→100km/h加速4.7秒、0→400m加速12.8秒、0→1000m加速22.9秒となっている。S85型エンジンはキイを捻ると、実におとなしくアイドリングを始める。SMGⅢを自動変速モードとなるDモードにして走らせれば、少し踏み込んでも3000〜4000rpmくらいの回転で流れに乗れるので、普通のセダンとして充分の実力を持っている。3500rpm時点で45.9kgmのトルクを発生し、それは同世代の5シリーズの上位モデルとなる「545i」のピークトルクと同等となる。それでも6500rpm以上に回転を上げてみれば、このエンジンの実力を味わう事が出来る。ダブルVANOSを備えるV10エンジンは、俄然レーシーな鋭いレスポンスを見せながら、ゴージャスなサウンドを聴かせてくれる。その時の乗り心地は驚くほどしなやかとなり、強いショックや足元の重さを少しも感じさせない。EDCをスポーツ・モードにすると明らかに足回りは硬くなるが、しっかりとしたモノコックボディの強さのおかげで、不快というレベルには至らない。E60型「M5」に採用されているSMGⅢは確実に進化を遂げ、Dモードでの自動変速はスムーズさを増し、マニュアル変速モードのSモードでは、ステアリング裏側に備わるパドルでの瞬時の変速が楽しめる。変速マナーはいたってスムーズとなるが、ツイン・クラッチによるDSG変速機を装備するモデルと比べると、シフトの節度感がしっかりと伝わりドライバーに自らチェンジしている手応えを感じさせる。もどかしいシフト・チェンジの遅れる感覚は無く、スポーツドライビングの邪魔をすることは無い。シャーシをMダイナミック・スポーツにして、SMGⅢをS5にセットし6000rpm以上を使って走るワインディング・ロードは、ドライバーにとってパラダイスとなるだろう。ベースとなる5シリーズに比べシャープでリニアなステアリングレスポンスと50:50の理想的な前後重量配分、トルク感応式可変デフのMディファレンシャルロック機構により、ハイスペックのエンジンを存分に味わう事が可能となる。スポーツドライビングと、どんな交通状況下においてもスムーズに流れに乗れる実用性の間を自由に行き来出来るのは「羊の皮を被った狼」ならではと言えるだろう。