サイズ
長 418.0 cm 幅 173.0 cm 高 115.0 cm
スモール・フェラーリの起源は、ロードモデルに限っていえば、1967年のトリノ・ショーで発表された「ディーノ206GT」に端を発する。それはチューブラーフレーム構造をシャーシにもち、V6エンジンをミッドシップ方式で横置きに搭載した2シーター・スポーツカーで、カロッツェリア・ピニンファリーナ社による美しいボディデザインにより人気を博した。更に1969年になるとエンジン排気量を拡大し「246GT」へと進化した「ディーノ」は、1973年のパリ・サロンにおいてモデルチェンジされ「ディーノ308GT4」へと続く。1975年10月のパリサロン、前年に生産終了となった「ディーノ246GT」の後継車として、ここでデビューしたのが「フェラーリ308GTB」となる。ブースに展示された、淡いブルーメタリックの外装に、マグノリアの内装をもったボディのデザインは、70年代〜80年代のフェラーリ黄金期のデザインを、数多く担当したピニンファリーナ社のレオナルド・フィオラバンディによるもの。前任車となる「ディーノ246GT」では、緩やかな曲率を基調とした60年代テイストの優雅なフォルムで高い評価を得ていた。それに対して「308GTB」は先に市場に送り出されていた「365GT/4BB」に共通する、当時としては先進的に見えるウェッジシェイプを取り入れながらも、艶やかさも漂わせるスタイリングに仕立てられていた。デザイナーのフィオラバンディ自身も、長い間自身で所有する程、気に入っていた「308GTB」の車名は「308」は「3ℓの排気量で8気筒」を「GTB」は「グランツーリスモで、ベルリネッタ=クーペボディ」を意味している。12気筒以外のエンジンを搭載した、初めてのフェラーリ・ロードモデルとなる「308GTB」は、その新しいボディデザインに対して、車体構造は「246GT」を踏襲した、フェラーリ伝統となるチューブラーフレーム構造となっている。前後方向に太めの2mm厚の3本の鋼管を並行にならべ、中央に115mm×52mm径を、両脇は94mm×55mm径の楕円断面鋼管を配置。この3本の後端、リア隔壁あたりに横に94mm×55mm径の鋼管を、前は同サイズ鋼管を左右の太い鋼管の先端から前方に斜めに突き出し、中央の鋼管と結び、これを車体構造の主役としている。このフロア部分から上に立ち上げ、上屋部を形成するフレーム部材は、足回りを支持する部分で、30mm×60mm径を、キャビンを支える部材で25mm径の円鋼管が受け持つ。これらによる鋼管を骨格として組み合わせ、その外皮となるボディパネルを軽量化する事により、運動性能を確保するという設計が「BB」と同様に、開発責任者のアンジェロ・ベレイを中心としてなされていた。そこで用いられるボディ素材が、ハンドレイアップとよばれる手作業で作られるFRP製のボディパネルとなる。その肉厚は3mm〜4mm程度となり、単体で持つとシナリが出る程薄く軽いもの。このFRP製ボディパネルはフロアパネルなどと共に、スカリエッティの工房内で作られ、樹脂製とは思えない程の高いクオリティで仕上げられている。︎搭載されるエンジンは、F106A型とよばれるオールアルミ製90°V型8気筒DOHC16バルブとなり、ボア・ストロークは81.0mm×71.0mmで2926.9ccの排気量をもつ。「BB」のエンジン同様、エンジン開発担当のジュリアーノ・デ・アンジェリスを中心とする開発チームにより新たに設計されたエンジンとなっている。燃焼室から、クランク軸受けまわり、大小端距離137mmのコンロッド、94mmのボア間ピッチ寸法、動弁系に至るまで「365GT/4BB」のエンジン(F102A型)から流用され仕立てられたもので、それ以前の「デイトナ」とも共通の単気筒容積365ccをもつエンジンとなる。ダウンドラフト・ツインチョーク・ウェーバー40DCNFを4基備え、圧縮比8.8から最高出力255馬力/7700rpm、最大トルク30.0kgm/5000rpmを発揮する。片バンクあたり2本のカムシャフトから一旦ギアで減速され、それぞれのバンクに専用のコックドベルトがかけられ駆動される。先に市場に出た「308GT4」と同じエンジンながら「308GTB」用はオイル循環をドライサンプ方式とし、ディストリビューターも、前車が各バンクごと1つずつとなるツイン・デスビであるのに対して、シングル・デスビとなっている。横置き搭載されるエンジンのTeksid社製の鍛造クランクシャフトから出力されたパワーは、エンジン左脇にあるケース内の3枚のギアに伝わり、そのギア3枚分だけ下にある、フェラーリ自製の2軸式5速MTに送られ、LSDの付いたディファレンシャルに届けられる。足回りは、前後ダブルウィッシュボーン式となりコニ製ショックアブソーバーを備える。サス・アームは前後とも大型の鋼板組立式Aアームを上下不等長並行配置するレイアウトとなり、それはレーシングカーの文法に則ったものとなる。また、前後ともにスタビライザーを装備する。ブレーキは前275mm径、後279mm径のベンチレーテッドディスクを備え、前後ともAte製の対向ピストンキャリパーが組み合わされる。タイヤサイズは、前後とも205/70VR14となり、6.5J×14サイズのクロモドラ製マグネシウムホイールと組まれる。インテリアは、フェラーリ伝統となる細身の3スポーク・モモ製ステアリングを通して正面に大小5つのメーター類がおさまる小型のメータークラスターが備わる。向かって左側に大径の280km/hまでのスピードメーター、右側に7700rpmからレッドゾーンとなる1万rpmまでのタコメーターを備え、その間に逆三角形状に燃料、水温、油圧の小型メーターが配置される。ステアリングコラム左側のダッシュボード下部に、小型の油温計と時計が装備される。これら大小のメーター類は、全てVeglia製となり、ファイバーボディを含む初期モデルはメーター類の数字のロゴが、リアに付く「GTB」のエンブレムと同様の二重線のレタリングとなる。シートは、それ程厚みは無く硬めとなるが、腰部をしっかりとホールドしてくれる、疲れにくいものとなっている。ステアリングから右手を下ろした所に丸いシフトノブが備わり、その根本にはフェラーリ独特のメタルのゲートが備わる。そのシフトゲートがある、センターコンソールには、エアコンはじめ空調用のタンブラースイッチやレバーが並び、クラシックなデザインでまとめられている。ダッシュボードからつながる形でデザインされる、ドアのアームレスト裏側に室内からのドアハンドルが隠れて装備されている。全長×全幅×全高は4320mm×1720mm×1120mm、ホイールベースは2340mm、トレッドは前後とも1460mm、車両重量は1090kg(1090kgは乾燥重量と考えられ、エアコンを含む装備重量は約1300kgといわれている。これでも後に販売されるスチールボディ仕様に比べ、およそ100kgも軽くディーノと比べてもそのエンジンの大きさを思えば、約50kg重いくらいとなる。ポイントは車の重心から一番遠い部分であるボディパネルが軽くなっているという事。運動性能に大きく影響する事が容易に想像出来る)。最小回転半径6.25m、燃料タンク容量80ℓ。生産台数は「フェラーリ308GTB/GTS」シリーズで12143台。そのうちファイバーボディは僅か712台といわれている。メーカー公表性能値は、0→400m加速14.1秒、0→1km加速25.4秒。最高速度252km/hとなっている。「308GTB」は、1976年11月に連続する24カ月の間に400台生産という規定をクリアし、FIAグループ4の公認車両となり、ベネチアに近いパドヴァでレース車両製作を手がけるミケロット(後に「288GTOエボルツィオーネ」や「F40 LM」を製作を担当する、フェラーリのGTレースカーの製作、準備、テクニカルサポートを行ってきた開発パートナー)によりコンペティションモデルが造られた。FRPボディをもつ「308GTB」をベースに開発された「308GTB・グループ4」は、前後トレッドを1500mmまで拡大し、左右ともに60mmずつ拡幅したリアフェンダーをもち、徹底した軽量化とロールケージなど補強部材を追加しながらも車両重量980kgとされた。エンジンは燃料供給をボッシュKジェトロニック・インジェクションに換装され、10.4の圧縮比から310馬力/8000rpmへと高められ、より高回転型とされている。主にターマック(舗装路)ラリーを中心に活躍し、1978年10月地元イタリアでWRCサンレモ・ラリーでデビュー、1981年82年においては、タルガ・フローリオやツール・ド・フランスで優勝を獲得する。ツール・ド・フランス連覇を果たした「308GTB・グループ4」は、日本のオーディオメーカー・パイオニアがスポンサーをつとめ、チーム母体はフランスのフェラーリ・ディーラー「シャルル・ポッツィ」協力により出走しブルーのボディカラーで彩られていた。グループBに移行されても4バルブ化されたエンジンで対応するも、改造自由度の高い新興勢力に太刀打ち出来ずフェードアウトし、フェラーリにおけるラリー・ヒストリーは、その幕を閉じた。「フェラーリ308GTB」は、Bピラーに沿ってドアから直立する、小さなドアノブを手前に引くとコトリとドアが開く。シートに腰を下ろすと見た目以上に低い目線は、この時代のフェラーリならではといえるもの。それでも全方向の視界は良好でフロントウィンドウを通して見える、左右のフェンダーの峰は、ボディ感覚を掴むのに有効となる。またミッドシップモデルとしては、リア斜め後方も視界も良好で、僅かに持ち上がったリアエンドも目視出来、日常使いでの負担は少ない。「308GTB」を走らせる為に操作で直接触れる部分となるステアリング、ギアレバー、シート、ペダル類は全て、骨格となるチューブラーフレームに直付けされている。これにより、ガッシリとした剛性感が生まれクルマとの一体感を強く感じられる。この感覚はチューブラーフレームを持つフェラーリならではとのものなる。重めのクラッチを踏んでギアレバーをゲートに沿って左列の手前に引いて1速に入れる。クラッチペダルをゆっくりエンゲージしていくとアイドリングのままでも、充分な低速トルクによりクルマは動き出す。ゆっくりと走り始めギアボックスのオイルが温まるまでは、2速は使わず3速に入れる。ある程度スムーズにエンジンが回り始めると、右側からウェーバーキャブの吸気音が、左側から3連のドライブギアのキーンという金属音が聞こえてくるのがわかる。V8エンジンは吹け上がりも鋭く、その回転ぶりは軽快そのもの。4000rpm以上でのパフォーマンスは素晴らしく、5500rpmを超えると頭打ちどころか、そこからもうひと伸びして7000rpmのイエローに吸い込まれる様に吹け切る。そのトップエンドのサウンドは、まさに「フェラーリ・ミュージック」とよべるもので、キャブ、エンジン、ギア、マフラーが渾然一体となったシンフォニーとなりドライバーに届く。「ディーノ246GT」と同じホイールベースをもつコンパクトなボディは、ワインディングロードでも、きわめて取り回しやすい大きさと感じられる。なるべく4000rpmから上の回転をキープ出来ればトルクに不足は無く、僅かな舵角にも反応してくれるステアリングと、頼れるブレーキシステムを操ってのドライビングは、そのサウンドも含めて至福の時となる。クルマの動きの軽快さや旋回モーメントの立ち上がりの良さは、軽いファイバーボディならではといえるだろう。そのファイバーボディは走りの面だけで無く、そのボディデザインにも大きく影響する。柔らかな曲面と鋭いウェッジで構成される「308GTB」のボディは、鋭利な彫刻刀で柔らかい粘土を削り取った様なディテールが多く存在する。「BB」に通じるウェスト部を一回りするキャラクターラインや、ドア後半部からリアクォーターにかけての凹んだエアインテーク、丸い2灯のテールランプを左右に配したリアエンドなど…これらは鋼板プレスでは極めて再現しにい部分となる。その部分をFRPボディでは、デザイナーが求めた本来のシャープなラインや鋭いエッジの形状がリアルに再現されたのもとなっている。フェラーリ社創業以前から、創業者エンツォのもとで働いてきた開発チーフのアンジェロ・ベレイとエンジン設計をした、トリノ工科大卒のエリートエンジニアのエリオ・デ・アンジェリス達が作りたかった「ディーノ」の真の後継車は、このファイバーボディを持つ「308GTB」だった。まさに彼らの狙い通り、という事は創業者エンツォ・フェラーリの考えた、走りと佇まいをもった、理想のスモールフェラーリの出発点となっているという事に他ならない。