サイズ
長 401.0 cm 幅 167.0 cm 高 127.0 cm
ナンバーズマッチング車両
︎第二次世界大戦後の1948年、ポルシェ設計事務所の疎開先であるオーストリア・グミュントで産声をあげた「ポルシェ356」。フォルクスワーゲン・ビートルのコンポーネンツを利用しているにもかかわらず、その先進性からたちまちのうちに高い評価を得る存在となった。それは事務所の中心となるフェルディナント・ポルシェの長男、フェリー・ポルシェにスポーツカー・メーカーとしてポルシェ社が進むべきであると、決断を促す事につながる。1951年にオーストリア・グミュントから、ドイツ・シュツットガルト北部のツッフェンハウゼンに会社を移すと本格的にスポーツカー・メーカーとして数多くの「ポルシェ356」を世に送り出す事になった。1960年になると1250人の従業員を擁し、生産台数8000台に迫る程となったのは、北米輸出による功績が大きく寄与していたことによる。その中でも一際人気を博したのが「356スピードスター」だった。第二次世界大戦後、北米で「スポーツカー」というカテゴリーが大きく躍進したのは、大量生産による乗用車しか知らなかった国に、イギリスに駐留していた米兵が「ジャガー」や「MG」といった、当地のスポーツカーを持ち帰った事に始まる。コンパクトなボディの2人乗りスポーツカーを求める層が急増し、欧州スポーツカー・メーカーが北米をメインマーケットとして新型車を矢継ぎ早に投入し始めた。ニューヨークにディーラーを所有し「ポルシェ356」を販売していたオーストリア人のマックス・ホフマンのリクエストによりポルシェ社は、1954年オープンボディといえども充分に耐候性を考慮した「カブリオレ」ではなく、よりオープン・エアを満喫出来るスポーツ性の高い「スピードスター」をデビューさせた。丸みを帯びたウィンドウスクリーンは出来る限り低くされ、サイドウィンドウを廃した軽快なスタイリングは、フォルクスワーゲン・ビートルのデザインを手がけたエルヴィン・コメンダによるもの。北米・西海岸の気候を想定し幌も必要最低限とし、多くの人がセカンドカーを持つ北米市場の実情から、軽量バケットシートによる2シーターの低いスタイリングを持っている。「スピードスター」のボディ・パネルは「カブリオレ」とは似て非なるものとなり、共通するボディ・パーツは無いといわれている。搭載されるエンジンはベースとなる「356」と共通となるが、装備が省かれることで軽量化され、結果的に高い動力性能と相対的に低い重心高をもち、独特なスタイリングからアメリカを代表する車好きの銀幕のスター達をも虜にする程の人気を博し、4800台に届く程の生産台数となった。この「スピードスター」の手法は時を隔てて1980年代後半に930型「911」をベースに蘇る。以降モデル末期に限定生産される「スピードスター」はコレクターズアイテムとなって代を重ね今に続く。1958年「スピードスター」に充実した装備が施され「コンバーティブルD」に進化する。特徴だった丸みを帯びた低いウィンドウスクリーンは四角くやや高めのものとなり、巻き上げ式のサイドウィンドウと「カブリオレ」と同様の革張りシートが装備された。幌は一枚布ながら、より耐候性の高いドイツ車らしいしっかりとした作りのものに変更されている。「コンバーティブルD」の車名にある「D」とは、ボディ製作を担当するコーチビルダーのドラウツ社の頭文字で「カブリオレ」はカルマン社が、代表的なロイター社は「クーペ」ボディを製作、ベルギーのディーテレン社なども製作にかかわり「356」のボディはコーチビルダーによりつくられていた。1959年フランクフルトショーにおいて「356B」がデビューをはたし「T-5」とよばれるボディには、新しいデザインが採用された。新型ボディは形状変更されたバンパーを持ち、フロントバンパーが95mm、リアバンパーが105mm高くなり、オーバーライダーが装備された。バンパー位置変更に伴い、ヘッドランプも上方に移されることで、ヘッドランプ上端からほぼ直線ラインで、フロントフェンダーがドア部分まで届くようになった。このモデルチェンジに伴い「コンバーティブルD」は「ロードスター」と改名され「クーペ」「カブリオレ」と並びラインナップされることとなった。
︎「356スーパーロードスター」に搭載されるエンジンは、616/2型とよばれる空冷水平対向4気筒OHVで、ボア・ストローク82.5mm×74.0mmで1582ccの排気量をもつ。8.5の圧縮比とゼニス32NDIXキャブレターを2連装する事で、最高出力75馬力/5000rpm、最大トルク11.9kgm/3700rpmを発揮する。「356スーパーロードスター」の車名にある「スーパー」とは3グレード設定された中の中間グレードを示すものとなる。同排気量から圧縮比とキャブレターの違いにより3種類のエンジンが設定されている。「356」に搭載される空冷フラット4エンジンは、鋭いレスポンスと精密機械のような緻密さ、スムーズに回る感触と味わいを特徴とし、扱いやすく耐久性に富んだエンジンといわれ、今に続くポルシェ社のアイデンティティが詰まったものといえるかもしれない。組み合わされるトランスミッションは741型とよばれる4MTとなり、トップ4速はベースグレードの60馬力エンジン搭載車の0.815から0.852とローギアード化されている。︎ 足回りはフロント・ダブルトレーリングアーム+トーションバー、リア・シングルトレーリングアーム+トーションバーとなり、ともに強化、改良されたもの。ブレーキは前後ともに新たなブレーキドラムが採用され、鋳鉄製ライナーをフィンを切ったアルミニウムで包んだアルフィンドラムとなった。放熱性、制動性ともに優れ、より高い信頼性も確立されたものとなる。ホイールサイズは4.5×15インチとなり165R15サイズのタイヤと組み合わされている。インテリアはポルシェとしては珍しくステアリングポスト右側にキーホールが配置されている。「クーペ」とは異なるダッシュボードのデザインは「スピードスター」から引き継がれた独立したメーターナセルを持つ。今回入荷した「356スーパーロードスター」には雰囲気の良いナルディ・クラシックウッドが装備されている。そのステアリングを通して見えるメーターレイアウトは山形に3個のVDO製メーターが配置され、正面中央には6000rpmまで刻まれた5000rpmからレッドゾーンとなるタコメーターが置かれている。斜め左下に同径の油温、燃料のコンビメーター、斜め右下にはスピードメーターが置かれる。ステアリングから手を下ろした位置に「356B」となってやや短くされたシフトレバーが配置される。オープン化されても極めて高いボディ剛性を持つ「356」ボディの秘密ともいえる、太いサイドシルにより中央に寄せられた2脚のシートは、シンプルな見た目ながらもしっかりと身体をホールドしてくれるもの。「スピードスター」とは異なり巻き上げ式のサイドウィンドウと、幌はドイツ式のしっかりとしたソフトトップを装備している。全長×全幅×全高は4010mm×1670mm×1270mm、ホイールベース2100mm、トレッド前1290mm、後1250mmとなっている。燃料タンク容量は52ℓ、車両重量は875kg。生産台数は「356B」シリーズをとおして31192台となり、そのうち「ロードスター」は2653台といわれている。軽量で、スポーツカーの魅力が濃縮されたと表現される「スピードスター」に対して、よりしっかりした作りとなる「ロードスター」は、それでもオープンボディによる「風」を感じるには充分な内容をもつ。今回入荷した車両は黒ボディに黒トップで各部に施されたメッキのパーツとのコントラストがシックな一台となっている。たてつけの良い、厚みのあるドアを閉めると、オープンボディながらも剛性感をたっぷり味わう事ができる。走り出しても路面状況に関わらず、入念に作られたドラウツ社製となるボディは、スカットルシェイクを発生する事無くソリッドな印象を与えながら、軽快に速度を上げていく。ウォーム&ローラー式のステアリングは、ラック&ピニオンに比べセンター付近に僅かに遊びを感じるかもしれないが、慣れればそれ程気になる事はない。約900kgの車重にたいして1.6ℓエンジンの75馬力は”必要にして充分“という表現の最後に”以上“の二文字を加えたくなる程のレベルを持つ。その気になれば強いトラクションを活かして、現代の街中の流れをリードすることも可能となる実力を見せる。加速を楽しめるエンジンはタコメーターの3000〜5000rpmにあるグリーンゾーンに針がある限り、空冷フラット4の底力のある唸りを発して、そのパワーを存分に感じることが出来る。それ以下の回転数においても充分なトルクに不足を感じる事は無い。また新たに採用されたアルフィンドラムブレーキは強力で信頼度は抜群に高く、低い重心高を活かしてのワインディングロードでの走りでは、たっぷりと「風」と戯れる事により、若き日のジェームス・ディーンやスティーブ・マックイーンが見た景色を目の当たりにする事が出来るかも知れない…