サイズ
長 453.0 cm 幅 187.0 cm 高 127.0 cm
︎1963年フランクフルトショーで「911」がデビューした事で始まる「ポルシェ911」の歴史。その歴史の中で初めて加わった「911」シリーズのレーシングモデルが「911R」とよばれるもの。車名の「R」も「レーシング」を表し1967年に登場したそのモデルは生産数が僅か23台(24台説あり)となる。はじめに3台が生産され、残された20台は「BMW M1」や「Z1」の生産で知られるバウア社が担当した。「911R」の特徴はエクステリアでは、空力的なパーツをもたないノーマル「911」と同じフォルムをもちながら、大幅な軽量化がはかられている事。フロントフェンダー、トランク・フード、エンジン・フード、バンパーなどがFRP製となりウィンドウ類もフロントはガラス製だが、サイドはプレキシグラス製で三角窓には、円形の回転式外気取り入れ口が備わる。クォーターウィンドウにはルーバーが切られ、リアウィンドウはプレキシドゥアとよばれるメタクリル酸メチル樹脂製で、ノーマル「911」のガラス製が4mm厚なのに対し2mm厚とされている。また前後フェンダーはフロント6J/リア7Jのホイールをカバーする為、フレアがつけられている。ボディパーツ類は、ウィンカーレンズやドアノブが簡素なモノに変更され、ドアはヒンジまで含めてアルミ製とされた。インテリアでは、トリム類も可能な限り省かれサイドウィンドウの昇降は、ストラップをスナップ留めする簡易な方式となり、インナーハンドルも無く、ストラップで代用されている。ドライバーズシートはレカロ製スポーツシートに変更されるが、助手席にはクッションすら無いフォーミュラーカーのシートの様なものが配置される。小径のステアリングは太めの皮巻きに、メーターはいつもの5連メーター用クラスターに3つのみとされ、約280kgの軽量化がはかられた。車両重量はプロトタイプで800kg、量産モデルで830kgといわれている。搭載されるエンジンは、生産型の空冷水平対向SOHC6気筒をベースに「カレラ6」と同等のチューニングが施された901/22型とよばれるもの。デュアルタイプのイグニッションが採用され、圧縮比を9.8から10.3に引き上げ、バルブ径の拡大とバルブタイミングの変更を受け、軽合金製のシリンダーは特殊コーティングが施されている。ウェーバー製46IDAキャブレターが備わりボア・ストローク80mm×66mmでノーマル「911」と同じ排気量1991ccから210馬力/8000rpmと21.0kgm/6000rpmのトルクを発揮する。ノーマル「911」が130馬力、その高性能モデル「911S」でさえ160馬力の時代に「ナナサンのRS」と同じ210馬力は驚異的な数値となる。大容量燃料タンクのキャップとオイルフィラーキャップは剥き出しとされ、ボディカラーはホワイトが標準でワークスカーとして数台を残し、各国のプライベーターに販売された。日本でも輸入元だった三和自動車により1台だけ輸入され、国内では「911T(4速モデル)」が315万円「911S」が510万円の時代に「911R」は1500万円という価格設定であった。「911R」は生産台数が少ないことから、プロトタイプとしてレースやラリーに出場し「ツール・ド・フランス」や「コルシカ・ラリー」などで優勝を飾る実力をもっていた。そして1967年、世界スピード記録にも挑戦し、5つの世界記録(連続走行15000km、10000マイル、2万km、72時間、90時間)と、2ℓクラスの14の国際記録をマークしている。「911」シリーズの中でそれほどの意味をもつ車名をポルシェは、2016年3月のジュネーブショーで復活させた。この2世代目ともいえる「911R」は、ちょうど1年前の2015年3月のジュネーブショーでデビューした「ポルシェカレラ991型」の「GT3 RS」をベースにしながら「911R」を名乗るのに相応しい内容をもったモデルとなっている。すなわちノーマルの「911」に近いフォルムと徹底的な軽量化、そしてレーシングカー並みのパワーユニットを搭載した限定生産モデルとなる。2世代目「911R」のボディは「991型GT3 RS」が採用するターボ系のワイドボディに対し、スタンダードボディをベースとしながらも「GT3 RS」同様に、「GT3」用となるアルミ製に対して1kg軽いマグネシウム製ルーフが採用されている。フロントフェンダー、トランク・フード、エンジン・フードはCFRP(カーボンファイバー強化樹脂)製となるのも「GT3 RS」同様。更にリアウィンドウ、サイドウィンドウがポリカーボネート製とされ、車体の軽量化と低重心化に配慮されている。インテリアではカーボンフレームによる軽量バケットシートが装備され、リアシートを取り外されている。エアコンをオプション扱いとしながら、カーボンセラミックブレーキ(PCCB=ポルシェ・カーボン・セラミック・ブレーキシステム)を標準装備、トランスミッションもPDKよりはるかに軽量なベーシックな6MTを備えPDKは設定されない。これらの装備により、軽量といわれる「GT3 RS」に対して更に50kgのダイエットに成功している。そして300km/hオーバーカーでありながら、目立つエアロパーツは姿を潜め、やや深めのフロントエプロンと昇降式リアウィング、リア・アンダーディフューザーを装備することでダウンフォースを確保している。搭載されるエンジンは「991型GT3 RS」から移植されたボア・ストローク102mm×81.5mmとなる3996ccの排気量となる、直噴水冷水平対抗DOHC6気筒となり「GT3」用からストロークを4mm伸ばして200cc排気量を拡大したもの。このエンジンはアルミ鍛造ピストンとチタン製コンロッドを装備し、可変バルブタイミング機構を備えた直噴式となり、圧縮比12.9と高く設定されている。発揮される出力、トルクは500馬力/8250rpm、46.9kgm/6250rpmとされ、ストロークを4mm伸ばしているにもかかわらず「GT3」の最高回転数9000rpmに遜色ない8800rpmの最高回転数を誇る。組み合わされるトランスミッションは「911R」用に新設計された6速MTとなり、レスポンスを重視する事からシングルマス・タイプのフライホイールが採用され、レーシングエンジン並みの鋭いピックアップが体感出来る。回転上昇のみならず、回転落ちも速い為、シフトアップも素早く行う事が要求される。こんな時に便利な機能としてセンタートンネル上の「SPORT」のスイッチを押すと「ケイマンGT4」にも装備される「スロットル・ブリップ・ファンクション」が働き、シフトアップ・ダウン両方向で自動的に、僅かにエンジン回転を調整しスムーズなシフトを可能としてくれる。またディファレンシャルには、加速側22%、減速側27%のロッキングファクターをもつ機械式のLSDを装備する。︎足回りはフロント、マクファーソン・ストラット式、リア、マルチリンク式となり、それぞれコイルスプリングとPASM電子制御ダンパーが装備される。ブレーキは、前410mm径×36mm、後390mm径×32mmサイズのカーボンセラミックドリルドローター(PCCB)が採用され組み合わされるキャリパーはフロント、6ピストン、リア、4ピストンのモノブロックキャリパーが付く。タイヤサイズは前245/35ZR20 91Y、後305/30ZR20 103Yのミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2が装備される。インテリアは、直径360mmのリムがブラックフィニッシュとなる「911R」専用ステアリングが備わる。そのステアリングを通して見えるメーター類のインデックスは、クラッシックなグリーンで表示されたものとなる。ドアハンドルはストラップで代用され、ダッシュボードやセンターコンソールのパネルはCFRP製パネルで彩られる。初代「911」を彷彿させるチドリ格子のファブリックを表皮としたカーボンシェルの軽量バケットシートを標準で装備する。今回入荷した車両は、オプションのシックなフルレザーのスポーツシートが装備される。重さの面では標準装備のバケットシートが有利となるが、日常使いでの乗降性やパワーシートとなる為コンフォート性の高い仕様となっている。全長×全幅×全高は4532mm×1852mm×1276mm、ホイールベース2457mm、トレッド前1551mm、後1555mm、車両重量1370kg。最小回転半径5.55m、燃料タンク容量64ℓ、生産台数991台の限定生産となっている。新車時価格は2629万円(ベースとなるGT3 RSの2530万円を上回る)。メーカー公表性能値は0→100km/h加速3.8秒、0→160km/h加速7.7秒、最高速度323km/h(GT3
RSは、それぞれ3.3秒、7.1秒、310km/h)となっている。ドアハンドルに手をかけると、軽い感じで開くドアを開け「911R」のバケットシートにおさまる。深めのクラッチを踏み込み左手でキーを捻りスターターを回すと、後方からチタン製のマフラーによる甲高い金属的なサウンドとともにエンジン音が響く。シフトストロークの短めなギアレバーを1速に入れクラッチをリリースするとハイパフォーマンスユニットでありながらも、低速域での柔軟性も確保されているので発進は特別なものとはならない。動き出して感じるのは、低く蹲った車高をもつわりには、しなやかなと表現出来る乗り心地だろう。これは「GT3」や「GT3 RS」とは異なるサスペンションによるもの。そして電動式パワステのギアレシオが比較的スローに設定されているので、しっかり直進を確保しやすく、左右に振られる感じも少ない。しなやかな乗り心地と直進安定性は、無駄な緊張感を緩和してくれるものとなる。それでも500馬力を発揮するエンジンの回転を上げていけば、4200rpm辺りからチカラが漲りはじめエンジン音も太くなり、7500rpmからは回転がもうひと伸びして快音を発しながら8500rpmに達する。「911R」に採用される6MTは「GT3
RS」の7速PDKに比べると全体的にハイギアード化され、各ギアでの伸びが楽しめる仕様となっている。コーナーではポルシェ・トルク・ベクタリング(PTV)と機械式LSDにより、アンダーが軽く素直にターンインが可能となり、軽量なボディと低い重心による相乗効果で、楽しみの尽きないワインディングロードとなるだろう。あくまでもドライバーズカーとしてつくられた「911R」は、マニュアルシフトをもつことでクルマとドライバーの距離感が近く感じられ、良好な乗り心地に包まれながら、思う存分に自分のペースで走らせる事が出来る。「911R」はスポーツカー好きにとって乗り続ける事に価値を見い出せる、代え難い「911」であるととも長く付き合える最上の「ポルシェ911」となるのではないだろうか…