ポルシェ911GT3
RS 3.8
クラブスポーツパッケージ、19インチGT3ホワイトホイール(センターロック)ダイナミックエンジンマウント(PADM)、ポルシェアクティブサスペンションマネージメント(PASM)、ポルシェスタビリティマネージメントシステム(PSM)、スタビリティコントロール(SC)、スポーツエグゾースト(センター2本テールパイプ)、トラクションコントロール(TC)、バイキセノンヘッドライト、LEDポジションランプ/テールランプ、3本スポークGT3ステアリング、アルカンターラシフトレバー/サイドブレーキレバー、カーボンダッシュボードトリム、タイヤプレッシャーモニタリング(TPM)、ガーズレッドシートベルト、フルオートエアコン、オンボードコンピューター、アルミ調フューエルタンクキャップ、室内アラームシステム、[オプション装備]フロントアクスルリフト機能、スポーツクロノパッケージプラス、軽量バケットシート、イエローペイントキャリパー、ボディーカラー同色ミラーベース、ヘッドライトクリーニング用ノズル、リアセンターコンソール、メーターパネルサラウンド、クロノメーターパネル、クリアガラスルックテールランプ、[社外装備]HDDナビゲーション、バックカメラ、ETC、GPSレーダー他が装備されております。
1929年11月18日ハンス・メツガーは、シュツットガルトの北にあるオットマールスハイムという小さな村で生まれた。宿屋を経営していた両親には5人の子供がいて、ハンスはその末っ子だった。この一家は芸術と文化を重んじる家庭で、幼い頃からハンスは航空機に魅せられて近隣に住むグライダーの愛好家達と滑空場へと良くでかけていた。ハンスが1956年にシュツットガルト工業大学(現シュツットガルト大学)を卒業した頃は、ドイツ工業界の復興期だったこともあり、就職先に困ることはなかった。28社からの誘いが舞い込んだが、そこにはポルシェは含まれてはおらず「ポルシェ356」に憧れをもつハンスは、ポルシェで働きたいという気持ちを持っていた。それを実現するべく、ポルシェの求人に応募して面接を受けたところポルシェ製ディーゼルエンジン開発の仕事をオファーされる。出来る事ならスポーツカー製作に関わりたいという希望を伝えてみると、ポルシェは彼の気持ちを尊重して技術計算部門の所属となった。1956年10月1日付けでポルシェに入社したハンス・メツガーは、設計室の一部署でヘルムート・ロンボルドが率いる計算部門に配属された。ここでカムシャフトの設計を受け持つハンスは、同僚達から直感的に信頼されるエンジニアとして認知されていった。ポルシェの社内で見たエンジンのうち、最もハンスが惹かれたのはエルンスト・フールマンがレース用に設計した4カムの水平対抗4気筒(タイプ547とよばれるもので、これの排気量を拡大したタイプ587/2型はカレラ2とカレラ・アバルトに搭載される)だった。並いるライバルメーカーと鎬を削る中でハンスに与えられたのは、このエンジンのパフォーマンスと耐久性をアップする任務だった。勤務時間の3割を設計室で、残り7割を実験部門で過ごすハンスのエンジンの潜在能力を引き出す才能は、同僚達から次第に認められるものとなり、ポルシェの主力だった水平対抗4気筒OHVエンジンにもその手腕が活かされるようになる。それまでパワーアップの為に吸気バルブばかり拡大していた設計を、ハンスは吸排気バルブ径のバランスをとりポート形状に手を加え、それぞれの気流の流れを改善する対策を加える事で「356」シリーズの中でのハイパフォーマンスモデル「スーパー90」を生み出す。ポルシェでは「356」の後継車となる新型モデル用のエンジンが開発されていた。ポルシェ初の水平対向6気筒となるこのエンジンは1959年に設計が始まり、2ℓの排気量から目標出力を130馬力に定めより大きなボディに搭載しても「356」を上回る動力性能を発揮出来る様に完成を目指していた。タイプ745というプロジェクトナンバーが与えられたこのエンジンはボア×ストローク80mm×66mmという、著しくオーバースクエアなディメンジョンをもち排気量は1991ccとされた。このエンジンは、クランクシャフト上下にバルブ駆動用のカムシャフトをそれぞれレイアウトし、タペットとプッシュロッドを使ってバルブを駆動するOHV式を採用する独創的な構造で設計されていた。空冷用の冷却ファンを並列に2基備え、サイドドラフトキャブレターを装備した上でのパフォーマンスは120馬力と17.0kgmのトルクを発揮するにとどまった。ポルシェは複雑な構造と性能的にも満たされないこのタイプ745エンジンに見切りをつけた。そして1961年12月、開発チームに数々のレーシングエンジンに関わっていた、ハンス・メツガーを加える。現代では新しい量産エンジンの開発には数百人のエンジニアが関わるが、1960年代のポルシェでは5〜6人の小さなグループが担当していた。ハンスは複雑な構造を見直しシンプルにチェーン駆動のSOHCヘッドをもつ水平対向に改め、鍛造クランクシャフトを採用して高い耐久性と先々の排気量拡大を想定しながら最終的な設計をまとめた。最終段階でこの開発チームに責任者として加わったのがハンスより6〜7つ年下のフェルディナント・ピエヒだった。フェリー・ポルシェの甥だったピエヒとハンスは、この新型6気筒エンジンで自分達の実力を証明したいと思っていた。「356」用のエンジンを製作していたレオポルド・ヤンチュケのチームにより作り上げられた新型6気筒エンジンはハンスによりその性能に磨きがかけられ、高い耐久性を確保するべくテストが繰り返された。そこで駆動チェーン用の油圧式テンショナーやフルドライサンプ機構、またクランクシャフトは7ベアリングとされ、冷却ファンのブレードは17枚から1枚の幅が広い11枚とさるなど多くの改良が施された。クランクシャフトを支持するアルミニウム合金製のクランクケースは、前後方向に2分割され各メインベアリングの上下に配した長いボルトで結合され、クランクを頑丈に支持する構造がこのエンジンの成長とこの先の長い歴史を生み出す事となる。ハンス・メツガーとフェルディナント・ピエヒにより量産型として仕上げられた水平対向6気筒エンジンは開発段階のタイプ821から901/01型と型式を改められ完成し1963年9月に新型モデル「901」に搭載され発表される。クラッチと補機類を含め183.7kgとなるこの空冷水平対向6気筒エンジンは、DIN方式で130馬力/6100rpmと17.83kgm/4200rpmのトルクを発揮し、新たなるポルシェの歴史を「911」とともに進化を続けながら公道やサーキットを舞台に歩み続けてゆく。1965年にピエヒは技術部長に、ハンスは新たに発足したレーシングカー設計部門の担当に就任し、その後も素晴らしいレーシングカーを手がけていく事となる。ハンスは自ら直接的に関わりアイデアと経験を飛躍的に広げながら「906」「910」「907」「908」と送り出していく。その技術を結集して水平対抗12気筒エンジン搭載の「917」を完成させると、ポルシェとしては悲願だった「ル・マン24時間耐久レース」の制覇を1970年に実現する。更にこの「917」のエンジンにターボチャージャーを加えCan-Amシリーズに挑戦することを考えたハンスは、様々な検証とテストを繰り返し1972年と1973年、2年連続してチャンピオンを獲得することに成功する。このターボチャージャーに関する技術は、ポルシェの生産モデルにフィードバックされるだけではなく、F1の世界からもアプローチされることになる。マクラーレンチームの代表ロン・デニスはレギュレーションに従い新しい1.5ℓ・V6ツインターボエンジンの開発をポルシェに依頼する。当時ポルシェはFIA世界耐久選手権(WEC)にグループCカー「956/962」で参戦中(1982〜1986年迄マニュファクチャラーズ/ドライバーズチャンピオンを5年連続で獲得、この「956/962」が搭載するエンジンは「935/78”モビー・ディック“」用フラットシックス・エンジンをベースとするレーシングモデルなので、これもハンス・メツガーの設計となる)だった為、開発費はマクラーレン共同代表の実業家マンスール・オジェのTAGグループが出資することとなり、ハンス・メツガーはその開発責任者を任される。この“ポルシェ製TAGターボ・エンジン"によりマクラーレンは1984年、1985年とF1コンストラクターズタイトルを獲得。ドライバーズタイトルもニキ・ラウダ、アランプロストにより1984〜1986年迄、3年連続して獲得することに成功する。1994年にポルシェを退社するハンス・メツガーが残した功績は計り知れない。現代に続く「911」のフラットシックス・エンジンに始まり、史上最強といわれたレーシングモデル「917」の12気筒エンジンや、マクラーレンチームと勝ち取ったF1のダブルチャンピオンシップ…どれもハンス・メツガーがいなければ実現しなかったものばかりといえる。︎変わりゆく時代に合わせて様々に変化を受け入れながら、常にスポーツカーのトップモデルとして存在し続けてきた「ポルシェ911」。最も大きな変化を迎えたのは、1997年9月のフランクフルトショーでデビューした「996型カレラ」かもしれない。1963年9月に発表された「911」は、1990年代半ばの「993型カレラ」迄は、エンジン排気量を拡大しながらも初代から続く空冷水平対向6気筒エンジンが搭載され、グリーンハウスの形状を維持しイメージを継承して進化を続けてきた。その「911」が「996型カレラ」では初のフルモデルチェンジとなる大きな進化を遂げた。全くゼロから設計し直された新型モノコック・ボディに新設計となる水冷水平対向エンジンを搭載して「911」として引き継がれたのは、唯一RRの駆動方式だけとなった。ポルシェ自身が置かれた会社の経営状況や時代背景の影響もあり、フロントバルクヘッドから前方のデザインは、先にデビューを果たした新型ミドシップ・オープンモデル「ボクスター(986型)」と共有デザインとされていた。それまでの”ポルシェを着る“と表現されるほどタイトだったキャビンは、拡大されコンフォート性能を引き上げながら、エンジンサウンドにも大きな変化がもたらされた。最後の空冷エンジン搭載モデル「993型カレラ」に比べ、排気量が200cc縮小されてもパフォーマンスアップされたエンジンと、フラッシュサーフェス化され柔らかいラインで形成される若干大きくなったボディは、50kgの軽量化が図られて確実な進歩を見せていた。「996型カレラ」は発進加速性能や最高速度に於いても、それまでの多くの空冷モデルを凌ぐ動力性能を発揮してみせた。空冷フラットシックスを特徴づけていた金属的なエンジンサウンドがマイルドに変化し、60km/hで流していても官能的と評された刺激が薄れた代わりに、あらゆる面での進化が「911」にもたらされたモデルチェンジとなった。この進化を認めつつも洗練や快適という言葉と引き換えに、スポーツカーとしての「911」の本質に疑問を投げかけるエンスージャストに向けて1999年3月のジュネーブショーで新たに発表されたモデルが996型「911GT3」となる。3.6ℓに排気量をアップされたエンジンと、極端に低められ強化された足回り、エンジンフード上に特徴的なデザインの2枚のウィングスポイラーをはじめとするエアロパーツが与えられていた。当時ポルシェのモータースポーツ部門を率いるハルトムート・クリステンによる「空冷時代の様に、サーキットをそのまま走れるロードモデルを」という発案により開発されたこのモデルには、ポルシェ上層部はあまり乗り気では無かったといわれている。この頃、コストダウンと利益を生み出す優良企業へと体質改善を目指していたポルシェはこのプロジェクトに消極的であったが、マーケティング&セールスチームの予想の約6倍にあたる1868台が生産され実績と利益を残すモデルとなった。この「GT3」では、多くのファンが待ち望む「911」の持ち味とも言えるエンジンのトップエンドでの吹け上がりの鋭さと、レーシング・ポルシェを彷彿とさせる様な咆哮が戻ってきた。「GT3」が搭載する3.6ℓエンジンは「996型カレラ」の3.4ℓのエンジンとは異なり、発表される前の年にル・マンを制した「GT1」と同様に、空冷時代のM64系エンジンのクランク・ケースが採用され、ボア・ストロークは空冷時代最後のモデルである「993型カレラ」と同じ値をもつ。DOHC24バルブのエンジンヘッドは「996型カレラ」と同じく水冷だが、クランクケースはハンス・メツガー設計による縦に2分割された空冷時代のものが採用され「GT1」と同様にチタン製コンロッドが用いられ、窒化プラズマ・コーティングが施されたクランクシャフトが組み込まれている。これにより60馬力と2kgmのトルクを上乗せした360馬力/7200rpmと37.7kgm/5000rpmを発揮するエンジンは6MTのみと組み合わされるが、そのパフォーマンスを表す数字よりも、このエンジンのフィールや征服欲に駆られるスポーツカーとしての「911」の本質を取り戻した事が評価された。だからといって「GT3」は、ポルシェ伝統の「カレラRS」の系譜を受け継いだモデルでは無かった。大きく異なるのは軽量化を追求することなく、前輪駆動系を搭載することからバルクヘッド周りの剛性が高い「カレラ4」用のモノコックボディが採用されている為に、ベースモデルの「996型カレラ」に比べ30kg重い車重をもち、レース参加の為のホモロゲーションモデルでも無かった。「GT3」に伝統の「RS」の称号が重ねられた最初のモデルの登場は「996型」最終期となる2003年9月のフランクフルトショーで発表された「911GT3RS」となる。「GT3」でも充分にレーシーな佇まいを持つにも関わらず、この996型の「GT3RS」では、ロールケージを装着した上で30kgの軽量化が施され「996型GT3」後期型と共通の381馬力/39.3kgmというスペックのエンジンを搭載し、車高は更に10mm低められている。ピックアップの鋭いエンジンや硬質感たっぷりの乗り心地、圧倒的なトラクションで前に押し出されていく感覚の味付けに加え、キャララ・ホワイトのみのボディカラーに、ブルー、またはレッドの大胆なボディサイドのレタリングと、同色で仕立てられたホイールにより「ナナサンのカレラRS」を彷彿とさせる強烈なインパクトを残し約700台が生産された。この流れは後継車となる「997型」にも引き継がれ、以降「GT3RS」というモデルは「911」の自然吸気エンジン搭載による最終進化モデルとして、またFIAによるレース参戦の為のホモロゲーションモデルとして、代が替わる毎に開発され存在し続けることとなる。︎今回入荷した2011年型「ポルシェ911GT3RS 3.8」は、ベースモデルの「997型カレラ」のマイナーチェンジを機に、それまでの「997型GT3RS」から大きく進化したモデルとして2009年フランクフルトショーで発表されたモデルとなっている。これまでの「GT3RS」シリーズと同様に、バルクヘッド周りの剛性の高いワイドトレッド化された「カレラ4」用のモノコックが採用され、フロントホイールアーチにはエクステンションを取り付けることにより、フロントもワイドトレッド化が図られている。これもレースを有利に戦う為のホモロゲーションモデルならではの進化となる。「RS」モデルなので軽量化にも配慮され、アクリル樹脂製のリアウィンドウはじめ、軽量エンジンフード、アルミ製ドア、チタン製マフラー、遮音材の省略等によりベースモデルの「997型GT3」後期モデルに比べ25kg軽い1370kgを実現している。また「GT3RS」では大型リアウィングを装備しているのも特徴で、これまでのモデルより更に大型化されたカーボンファイバー製ウィングが装備されている。リアホイールアーチから発生する気流を考慮し、両端は異なる断面形状とされた特徴的な形状のウィングとなる。このウィングに代表されるエアロパッケージにより300km/h時には「997型GT3」の2倍に相当する170kgのダウンフォースを発生するとされている。もちろん注目は搭載されるエンジンとなり、空冷時代を代表する「964型RS 3.8」や「993型RS」と同じボア・ストロークをもつ3.8ℓ・フラットシックスで歴代の「GT3」と同様、ハンス・メツガーによる空冷時代のクランクケースが採用されたモータースポーツ直系の非常に頑丈で信頼性の高いエンジンとなる。ギアボックスは、ショートストローク化された6速マニュアルトランスミッションのみが設定されているのもこれまでの「GT3」シリーズと同様となる。この空冷時代のクランクケースやマニュアルトランスミッションによるパワートレインはここまで続いた「911」の、そして自然吸気エンジンを搭載する「GT3」の集大成といえる内容をもつ。今回入荷した「911GT3RS」がもつキャララホワイトのボディに赤いデカールが施されたエクステリアは「RS」モデルの出発点でもある“ナナサンのカレラRS”のイメージを強く感じさせる仕上がりとなっている。︎「911GT3RS 3.8」が搭載するエンジンは、水平対向6気筒・DOHC24Vとなり、空冷時代の「964型RS 3.8」や「993RS」と同じボア×ストロークとなる、102mm×76.4mmから3797ccの排気量を得る。バリオカムとよばれる可変バルブ機構と12.2の圧縮比をもち、最高出力450馬力/7900rpmと最大トルク43.8kgm/6750rpmを発揮する。これまでの「GT3」シリーズと同様に、ハンス・メツガー設計による縦に2分割された空冷時代のM64系エンジンのクランクケースが採用され「GT1」と同様にパンクル社製チタン・コンロッドが組み込まれている。またチタン製エキゾーストシステムとシングルマスのフライホイールが採用され、軽量化に配慮されたエンジンとなる。この組み合わせによりアイドリング時は、どこか不規則で安定性に欠けるサウンドを響かせるが、そのぶんスロットルレスポンスは跳ね上がる様な軽快な反応を見せる。公道やサーキットに於いて最高のパフォーマンスが約束さた珠玉の自然吸気エンジンとなり、外部タンク式のドライサンプ潤滑方式が採用され中低速トルクを確保しながら7000rpmを超える回転域まで一気に吹け上がるフィールを実現している。ベースとなる「997型GT3」後期モデルと同じ排気量から、吸気系の改良により15馬力の出力向上のみならず、リッターあたり驚異の119馬力を達成し、最高許容回転数は8500rpmとなっている。ベースモデルの「GT3」では、ラバーマウントを介してエンジン振動のキャビンへの侵入を軽減しているが、この「GT3RS 3.8」では運転状況に応じて硬度が変化する「ダイナミック・エンジンマウント」が採用されている。これはマグネティックライド・ダンパーと同様に磁性流体の磁力を変化させてマウントの硬度を変化させることで荷重移動をコントロールし、コーナリング姿勢に及ぼす影響を最小限に抑える技術が用いられている。この「ダイナミック・エンジンマウント」により270kgのエンジンとギアボックスの動きは、最大25mmから最小2mm迄の間で変化する。エンジンと組み合わされるトランスミッションは、これまでの「GT」シリーズと同様に、ショートストローク化された6速MTのみが設定されている。トレッドが広げられたことにより前面投影面積が大きくなったことで、高速域での空力が不利となることから、ベースモデルの「GT3」から13%のローギアード化が図られ加速重視のギアレシオが採用されている。︎足回りはフロント・マクファーソンストラット式+コイルスプリング、リア・マルチリンク式となる。PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント=走行状況に対応して電子制御によりダンパーの減衰力を無段階で調整するシステム)が装備される為、あらゆる速度で見た目の低く固められた印象から想像されるより良好なライドフィールをもつ。PASMはノーマルとスポーツの2つのモードが設定されるが、それは大別すると一般道用とサーキット用となっている。また今回入荷した車両には、低い車高をカバーするために便利なフロントアクスルリフト機能がオプション装備されている。ブレーキはフロント、リアともにドリルド・ベンチレーテッドディスクが装備され、フロントに6ポッド、リアには4ポッドのアルミ製モノブロックキャリパーが組み合わされている。ブレーキディスクのサイズは、フロント380mm径、リア350mm径が採用されパワーに見合った定評あるブレーキ性能が維持されている。センターロック式が採用される軽量なホイールはフロントに9J×19インチ径、リアに12J×19インチ径が装備される。組み合わされるタイヤサイズは前後それぞれ245/35ZR19、325/30ZR19サイズとされ、今回入荷した車両には「ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2」が装備されている。︎インテリアは「ポルシェ911」の流儀に沿ったレイアウトとされ“仕事場”とも表現出来る、古き良き味わいも引き継がれたものとなる。ステアリングとシフトレバーには軽量なアルカンターラが採用され、ステアリングポスト左側にはキーシリンダーが配置されている。エアバックが備わるシンプルな3スポークのステアリングを通してドライバー正面には、5つのアナログメーターがレイアウトされる。中央に置かれた大径の9000rpmまで刻まれたレブカウンターには「GT3」のロゴが配され、8400rpmから上がレッドゾーンとなっている。レブカウンターの「7」の数字の下にはシフトアップインジケーターの“三角マーク”があり、8100rpmあたりで点灯し、そのレブカウンターの左側には350km/h迄のスピードメーターが配置されている。軽量なレカロ製バケットシートには「RS 3.8」の刺繍が施され前後の位置調整のみが可能となるこのシートは、不思議とベストなドライビングポジションが得られることから、ポルシェのこれまでのノウハウを感じさせる。リアシートは取り払われ複雑な形状のロールケージが装備されている。ドアオープナーは「RS」モデルの伝統となるストラップ式の軽量なものとされ、スカッフプレートにも「3.8」のロゴを確認することが出来る。今回入荷した車両は、ドアオープナーストラップ、シートベルト、ロールケージ、軽量バケットシートの刺繍を赤で統一し、暗めの機能素材で覆われるホモロゲーションモデルのキャビンに差し色として使うことで、軽快なコントラストを生み出している。その赤の差し色はエクステリアにも用いられることで、このモデルの魅力を一層引き立てる事に成功している。︎全長×全幅×全高は4460mm×1852mm×1280mm、ホイールベースは2355mm、トレッド前1509mm、後1554mm、車両重量は1370kgとなる。燃料タンク容量は67ℓ、最小回転半径は5.45mとなっている。︎メーカー公表性能値は、0→100km/h加速4.0秒、最高速度310km/hとなっている。AUTOCAR誌による実測テストでは0→97km/h加速3.9秒、最高速度311km/hを記録している。︎ホイールアーチを飾るデカールと、巨大なリアウィングが目を引く「911GT3RS 3.8」のエクステリアは、フェンダーいっぱいに張り出したホイールとタイヤ、低く蹲った佇まいがとてもレーシーな仕上がりを見せている。装備される様々なパーツがそれぞれに意味をもち、その集合体となる存在感にはポルシェのこれまでの歴史が凝縮され、刻まれている様に見える。ドアを開けてバケットシートに腰を下ろしペダル類でシートポジションを調整すると、自然と伸ばした手はステアリングを握るのに相応しいスタンスとなり絶妙なドライビングポジションが得られる。踏力を必要とするクラッチを踏んで、左手でキーを捻る「911」ならではのエンジンスタートの儀式により始動した瞬間から主張し始めるエンジンは、粗削りで不機嫌そうな回り方でアイドリングを続ける。アクセルを踏み込むとシングルマスのフライホイールをもつこのエンジンは、ペダルに敏感に反応を見せるが走り出す為の気むずかしさは感じさせない。低回転域から力強いエンジンはスムーズに加速し、3000rpmあたりからは力強さに凄みを帯びてくる。シフトレバーはギアチェンジの為のストロークは小さくチェンジの度にギアがしっかりと噛み合うのを感じさせ、しっとりとしたステアリングフィールは路面とのコンタクトを絶えず伝えてくる。何よりも回転域の変化を音色が変わる事で伝えるこのエンジンは、表情豊かでメカニカルな感覚に溢れ、自然吸気エンジンならではのナチュラルなトルクの変化が楽しめる。中でも最後の1000rpmのサウンドは甘味ともいえる印象的なものに仕上げられ、回転を上げる程にそのレスポンスとサウンドは鋭さを増し協力なパワーが湧き出すのが感じられる。マニュアルシフトで的確なギアと表現力あふれるステアリングを2本の手でコントロールしながら、2本の足で3つのペダルを操作し、湧き出すパワーをスピードに変換していくことは純粋にアナログなドライビング感覚を生み出す。ここで味わえるドライブフィールは「911」が誕生した時から引き継がれ、その進化してきたDNAが凝縮されたものとなる。この「GT3RS」とのコミュニケーションは、いかなるスピード領域においてもとてもダイレクトなものとなり、そのパフォーマンスを基準に考えれば公道上で最も過激なモデルではあるが、上質の人車一体感があるからこそハイパワーモデルとして成り立つモデルともなっている。フルにパワーを使った時に対応出来る様に仕立てられた足回りと、ブレーキ、ステアリングのリニアさは、フルにパワーを使わない時にも正確なレスポンスとフィールを楽しませてくれる。そういうコミュニケーションを続けるうちに、しだいに「GT3RS」がもつポテンシャルの奥深さが垣間見えるようになる。このコミュニケーション能力の高さも「GT3RS 3.8」がもつ特徴のひとつとなっている。レース部門であるヴァイザッハで開発された「GT」シリーズは開発当初は、後にどれほど注目を浴びるシリーズになるのか予測出来た者はいなかった。「ボクスター」と「996型カレラ」を開発するにあたり徹底的な改革を行ったポルシェのビジネスはしっかりと収益をカタチにしてみせた。次に「カイエン」とそこから広がるバリエーションモデルがそれ以上のインパクトを及ぼすことも誰もの想像を超えたものとなる。そこから25年以上の時を経て、ポルシェはその収益の多くをSUVに頼りながらも本質をスポーツカーメーカーとして存在し続けている。そのマニュフェストが「GT」シリーズであり、最初に誕生した「996型GT3」から引き継がれる自然吸気エンジンと6速マニュアルトランスミッションが織りなすドライビング感覚を煮詰めた「997型GT3RS 3.8」に引き継がれている。続く「991型911」からは、新たなるパワーユニットと「PDK」を加えながらポルシェの本質となる「GT」シリーズは現代にもしっかりと引き継がれている。