サイズ
長 417 cm 幅 163 cm 高 126 cm
ディーラーにて、メカニカルポンプオーバーホール済車両入庫いたしました。
フェルディナント・ポルシェの長男、フェリーの愛称でよばれるフェルディナント・アントン・エルンスト・ポルシェは、第二次世界大戦の戦禍を逃れ疎開先のオーストリアのグミュントで、200人の優秀な職人と40人のエンジニアを抱えていた。フェリー自身はイタリア・トリノのチシタリアの設計や他のプロジェクトを抱えながら、フォルクスワーゲンをベースにスポーツカーを造るというアイデアを温めていた。このアイデアをもたらしたのはチシタリアで、フィアットの安いパーツから高級車を生み出す技術を目の当たりにして、自分達にもフォルクスワーゲンのパーツで同様の事が可能だと感じていた。1947年、チーフ・エンジニアのカール・ラーベとともに量産実現の可能性を検討するフルスケールのプロトタイプ製作を決意し、自身もドライビングが楽しめるモノに仕上げる事を目標とした。更に、当時ポルシェ社が生み出した、最大のカリスマ的存在となる「アウトウニオン・グランプリカー」のコンセプトを設計に反映させる事も含まれ、これはすなわちエンジンをミッドシップで搭載するオープンモデルを意味していた。シャーシの基本構造は、エルヴィン・コメンダ設計によるクロムモリブデン鋼を使った鋼管スペースフレームとされ、フレームが35kg、ボディが50kg、エンジンとリアアクスルで200kg、乾燥重量550kgと想定していたが、実際は585kgとなった。それでもフォルクスワーゲン・ビートルより約100kg軽量な、キビキビとドライバーの意志を反映出来るクルマが完成する。足回りやブレーキなど、なるべく多くのパーツをビートルから移植し、フォルクスワーゲン製1.1ℓ空冷水平対抗4気筒エンジンは、圧縮比を5.8から7.0まで高め、シングルだったキャブレターはツイン化された。出力はベースエンジンの25馬力から35馬力まで高められ、ギア比を変更することなく最高速度は計算上60mphから90mphまで向上する事が見込まれたが、ウィンドウスクリーンにより実際は84mphに留まった。こうして完成した、ポルシェの名前を初めて冠した車両は「356
No.1 ロードスター」と名付けられ、1948年6月8日に登録を受けると、8月にはインスブルックで開催されたレースイベントで観衆の前に赴き、その走りを披露した。ポルシェ社にとって記念すべき最初の一台はオープンボディをもつミッドシップスポーツモデルとなった。その後、ポルシェ社によるはじめての量産モデル「356」は、1965年までに7万8千台が生産され「カブリオレ」や「スピードスター」など魅力的なオープンモデルを常にラインナップしながら、メインマーケットとなる北米での不動の人気を博した。オープンモデルは屋根が無い事で軽量化と低重心化を図る事が出来、風を浴びて走れる事と、ボディ構造上エンジンやエキゾーストの音がより明確にキャビンに侵入する事により、スピード感を得やすくスポーツカーにとっては理想的なボディ形状のひとつとなっている。ポルシェ社のロードモデルはスポーツカーである以上、サーキットを意識したクーペボディのホモロゲーション・モデルや、ボディ剛性を考慮したハイパフォーマンスモデルに人気が集中する一方で、オープンモデルの需要もけして侮る事が出来ない程、高いものとなっている。「356」の後継車となる「911」のチーフデザイナーであるブッツィーの愛称で知られる、フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェは「911」開発初期の段階から、需要の見込めるオープンモデルを視野に入れてデザインを進めていた。「356」の時とは異なり「911」には、ベースモデルや流用パーツが無いため、設計の自由度は高いが、達成すべき動力性能もまた高く設定されていた。ブッツィーの言うように市販型「911」クーペの生産が開始されるのと同時期の、1965年秋のフランクフルトショーでプロトタイプが公開されたオープンモデルの「タルガ」は1967年モデルとして販売が開始された。「タルガ」という車名は、イタリアのシチリア島で開催される公道レース「タルガ・フローリオ」が起源とされている。ポルシェはこのレースにおいて1966年〜1970年迄、5連勝を成し遂げ無敵の強さを誇っていた。ポルシェとモータースポーツとの深い関わりを表現するのに相応しいネーミングとして採用されている。「セーフティカブリオレ」のスローガンのもと、オープンモデルの危険性について議論の高まりをみせていたアメリカ市場を考慮した「タルガ」は、約20cm幅の太いBピラーをロールバー状に残すデザインとされ、取り外し可能なトップとソフトな樹脂製リアウィンドウにより、オープンエア・モータリングが楽しめるモデルとして誕生した。しかし1969年になるとリアウィンドウは耐熱のガラス製パノラマウィンドウに変更され、風を受けてドライブ出来るオープンモデルとしての楽しみは半減してしまう。それでもカーデザイナーのジョルジェット・ジウジアーロは自身のプライベートカーとして購入した1台目の「911」は、1972年型の「911タルガ」だったという。購入のきっかけはフェルディナント・ピエヒと直接仕事をする中で、ステアリングを握る機会を与えられ、走り出して僅か数メートルで一目惚れして購入を即決。「タルガ」のキャラクターを「個性的なスタイルでクーペとカブリオレの完璧な融合」と表現している。「911タルガ」は、ナローボディからビックバンパーを備える「Gシリーズ」に進化しても、「Lシリーズ」でフルオープン/ソフトトップモデルの「SCカブリオレ」が加わってもカタログモデルとしてラインナップされ続けた。単なるオープンモデルであるだけで無く、個性的なクーペモデルとしても強い存在感を発揮している。「993型カレラ」以降「パノラミック・スライディングルーフ」へとスタイルを変化させた「911タルガ」だったが、2014年「991型カレラ」をベースにグラント・ラーソンのデザインにより「911タルガ」は復活を遂げる。その最大の特徴となる太いメタリックのロールバーを備えたスタイルに、見慣れた「targa」のエンブレムが付き、リアにはガラス製パノラマウィンドウを装備して、大掛かりな電動トランストップ・モデルとして蘇った。ジウジアーロは、このデザインが継承された「992型」の「911タルガ」を再びオーダーしたとされている。今回入荷した1973年型「ポルシェ911Sタルガ」に搭載されるエンジンは、空冷水平対抗SOHC6気筒12バルブ、ボア×ストローク84.0mm×70.4mmから2341ccの排気量を得る。ボッシュ機械式燃料噴射装置と8.5の圧縮比から最高出力190馬力/6500rpmと、最大トルク22.0kgm/5200rpmを発揮する。この当時、アメリカはじめ世界規模で高まりつつあった排ガス規制に配慮して、キャブレターに代えて燃料噴射装置を備えるのに加え、圧縮比を下げる事で排ガスに含まれる窒素酸化物量を減少させるとともに、低オクタン価の無鉛ガソリン使用も可能としたのが特徴のエンジン。前モデルの2.2ℓ・フラット6エンジンでは、圧縮比は「911T」で8.6、「911E」で9.1、「911S」で9.8とされていた。ここでのパワーの損失をクランクケースの形状を見直しながら、コンロッドを2.2mm切り詰め、コンロッド・ベアリング径を5mm小径化するとともに2mm拡幅して強度を高めることで4.4mmのストローク・アップを実現、146ccの排気量拡大により2.4ℓ化して、パフォーマンスを引き上げる事に成功している。排気量アップにより低回転からトップエンドまで、満遍なくトルク感が増し、歴代の「911S」の中では扱いやすいとされるエンジンとされているが、フラット6らしいレスポンスと5000rpmから上の鋭い吹け上がりは継承されている。2.4ℓのこのエンジンは、1973年型「カレラRS」の2.7ℓエンジンをホモロゲ・モデルとして除外すれば「911」登場時から続く「ナロー」とよばれるボディに搭載されるエンジンの中では最終進化型となっている。組み合わされるトランスミッションは、それまでのモデルの様に左手前に1速があるレーシングパターンのシフトとは異なり、新型の915型とよばれる1〜4速でH型のシフトパターンを持つ通常タイプの5速マニュアルトランスミッションとなる。2.2ℓエンジンモデルと比べて1〜4速迄がローギアード化され、ファイナルは4.429と共通となっている。︎足回りはフロント・マクファーソンストラット式+トーションバー+スタビライザー、リア・トレーリングアーム式+トーションバー+スタビライザーとなる。サーボを持たないブレーキは、前後ともにベンチレーテッド・ディスクが備わる。ホイールは4輪ともにFUCHS社製の6J×15インチサイズが採用され、185/70VR15サイズのタイヤと組み合わされている。インテリアは「ポルシェ911」登場時から継承されるメータークラスターを持ち、ステアリングを通して中央に大径のレブカウンターが配置される。レブカウンターのレッドラインは7200〜7400rpmに置かれ、その右側には250km/hまで刻まれたスピードメーターが配置される。空冷時代のフラット6エンジンは精密機械に例えられ、オイルの管理はとても重要となる為、レブカウンターの左側には油圧、油温、油量と3つのメーターによりオイルの情報が正確に伝えられる。装備されるメーター類はともに視認しやすいVDO製となっている。キーシリンダーはステアリングポストの左側に位置し、床から生えたペダル類とやや短めのシフトノブが「911」らしさを強調する。インパネ下部に備わるウッドパネルとベージュのレザーで仕立てられた内装がシンクロして、タイトな室内を明るく感じさせている。細目に立ちあがるピラー類により、全方向とも視界は開けたものとなり、取り回しのしやすさやボディサイズ感も併せて「ポルシェを着る」と表現される程、ドライバーに馴染みやすく、様々な状況下で思い通りに走らせやすい。これは同世代のスポーツカーの中でも「911」ならではと言えるもので大きなアドバンテージとなっている。「タルガ」の特徴となるルーフはフロントウィンドウ上部にある2つのロックで固定されている。一人での取り外しが可能となり折り畳む事でフロントのトランクに収められる。オープンでの走行でも風の巻き込みは少なくヒーターは強力なので冬場のオープンエアモータリングも楽しめる。ウィンドシールドをとおしてドライバーズ・シートから見えるヘッドライトの峰は、現代の「911」には無い格別な眺めとしてドライバーの視界に常に存在する。全長×全幅×全高は4163mm×1610mm×1320mm、ホイールベース2271mm、トレッド前1372mm、後1354mm、車両重量1080kgとなっている。新車時車両価格は655万円(911Sクーペモデル)となる。︎メーカー公表性能値は、0→60mph加速6.5秒、最高速度232km/hとなっている。1973年型「Fシリーズ」の「911」は、フレアしたフェンダーなどあるにせよ、1964年9月に「911」が販売開始された時のフォルムを維持する、ナローボディの最終モデルとなる。特徴的なヘッドライト下のホーンリングは、それまでのメッキタイプからブラックに変更され「911S」ならではのフロントに控えめなリップスポイラーが備わる。ドアを開けてドライバーズシートに腰を下ろし、ドアを閉めた瞬間から外界と隔絶されるような感覚を覚える密閉感は「タルガ」ボディであっても、他の「911」と変わらない。左手でイグニッションキーを捻りエンジンをスタートさせると空冷エンジンならではのサウンドが後方から聞こえてくる。床から生えたクラッチを踏んで1速にギアを送り、クラッチをエンゲージしてみる。圧縮比が下げられ低回転域でのトルクが厚くされたエンジンはチューニングの高い「911S」にしても、スタートを容易にしている。クラッチのデリケートな「911」なので意識して、アイドリングより少し回転を上げ、そっと繋いで動き出し、完全に繋がった段階でアクセルを開け始めるのが良しとされている。アクセルを開けてからの加速は、とてもスムーズで3000rpm迄のエンジンサウンドによる影響からやや重く感じる部分を過ぎると、全くフリクションを感じる事なくレッドゾーンめがけて回転を速めていく感覚が味わえる。2速、3速とシフトアップしても、この回転感は変わらない。空冷フラットエンジンらしく低中回転域では、メカニカルなノイズを発するエンジンも、5000rpmあたりから音が揃いはじめ迫力あるサウンドをトップエンドまで聴かせてくれる。その上、このエンジンは吹け上がりの鋭さ同様に、回転落ちの速さも特徴となりスロットルを抜いた瞬間にスッと、フライホイールの重さを全く感じさせないような鋭敏なレスポンスを見せる。慣れるまではシフトアップ・ダウンでのスムーズさを欠く程の好レスポンスを示しながら、低中速域でのフレキシビリティを維持しながら、どの速度からでもチカラ強い加速に移る事が可能となっている。乗り心地は低中速域ではゴツゴツ感を示すが、100km/hに近づく程に落ち着いたフラットなフィーリングに変化し、安定した乗り味を提供してくれる。ワインディングロードでは、シフトダウン時の中吹かしに注意しながら、レスポンスの良いエンジンを適切に扱う事が必要となってくる。曲率の大きな高速コーナーでは、パワーオンで安定した姿勢を示してくれる。タイトなコーナーでのパワーオンはノーズを外に押し出すだけとなりスロットルを戻せば鼻先をインに巻き込む事が出来るが、右足の微妙なコントロールを誤ると重いテールをアウトに振り出してしまう事になる。コーナーでのアクセルコントロールは、慎重に行わなければならない。ワインディングロードに於いては安全に回り込んで立ち上がりでフルパワーをかける方法でも、充分に高いアベレージを維持出来、楽しむ事が可能となる。どんな場面においても「911」ならではとなるのが信頼のおける強力なブレーキで、リアエンジンによる前後重量配分を活かしての制動能力の高さは大きなアドバンテージとなっている。普段使いのタウンスピードから、高速での長距離移動、またワインディングロードでのスポーツドライビングを含め、いかなる場面でも高いドライバビリティを発揮する「911」は、長くつきあえる1台となる。その上、個性極まる「タルガ」ボディは、オープントップにより魅力的な空冷エンジンサウンドをBGMに風と戯れる事をも手に入れている。クラッシックなナローボディに、扱いやすさと鋭いレスポンスをあわせ持つ2.4ℓエンジンを搭載した「911Sタルガ」は、生産台数、僅か1914台となっている…