サイズ
長 438.0 cm 幅 176.0 cm 高 118.0 cm
1973年10月のパリサロンでデビューした「ディーノ308GT4」は1960年代末に、フェラーリ・ロードカー部門がフィアット傘下となってから開発された初めてのモデルとなる。車名の「308」は3ℓ・V8エンジンを「GT4」はグランツーリスモ・4シーターをあらわしている。それまで生産されてきた「ディーノ246GT」の後継車という形での登場となり「ディーノ」ブランドを継承するモデルとなっている。それは創業者エンツォ・フェラーリの「12気筒で無ければフェラーリではない」という言葉どおり、新開発による3ℓ・V8エンジンを搭載する初めてのフェラーリ・ロードカーとなる。跳ね馬は付かなくても「その性能を含め、それはフェラーリ以外の何物でも無く、短命に終わった365GTC4よりもはるかに速い」と当時のカーグラフィック誌上で、ル・マンに勝利した事もあるモータージャーナリスト、ポール・フレールはインプレッションを残している。また「ディーノ308GT4」は、フェラーリの市販車としては、唯一となるカロッツェリア・ベルトーネのマルチェロ・ガンディーニのデザインしたボディを持ち、フェラーリとして初めてリトラクタブル・ヘッドランプが採用されたモデルでもある。後に登場する同じ「308GT」でも2シーターとなる「308GTB」がそうであるように、多くのフェラーリ・ロードモデルがカロッツェリア・ピニンファリーナのデザインによる流麗なボディラインをアピールポイントとしてきた。ウェッジシェイプを用いて平面を多用した「ディーノ308GT4」となるが「308GTB」とともにボディの架装は、歴代フェラーリの多くを手がけているボディ工房、スカリエッティの手による。それ以前のフェラーリ・ロードモデルと同様にクロモリ製チューブラーフレーム構造が採用され「308GTB」より210mm長い、2550mmのホイールベースをもち1976年には「フェラーリ308GT4」と車名の変更を受け、フロントノーズにはフェラーリのエンブレムを付けながらもトランクリッドの「ディーノ308GT4」の車名エンブレムは残された。この時代のイタリアのスポーツカーメーカー各社は、こぞって北米での「ポルシェ911」の成功に着目し、2+2ボディを持つミッドシップスポーツカーを開発することに傾倒していた。新興勢力のランボルギーニは「ウラッコ」を、古豪のマセラティは「ボーラ」の兄弟車として「メラク」を、そしてフェラーリは「ディーノ308GT4」を生産していた。またイタリア国内において2ℓ以上のモデルに掛けられる38%にものぼる、付加価値税を嫌っての対策としてランボルギーニは「ウラッコP200」を1974年11月のトリノショーで披露する。追いかけるようにフェラーリは、ボアを縮小して2ℓ・V8エンジンを搭載し「208GT4」を1975年に登場させ、マセラティは「メラク2000GT」を1976年にそのバリエーションに加える程の、顧客争奪戦が繰り広げられた。「ランボルギーニ・ウラッコ」のパッケージからボディデザインまでを請け負っていたカロッツェリア・ベルトーネの、4シーター・ミッドシップ作りの実績は「ディーノ308GT4」にも活かされ、その後席は両膝を前席バックレストの両側に突き出すようにすれば「ポルシェ911」よりは楽な後席といえるくらいのスペースが確保されたものとなる。同じエンジンを搭載する「308GTB」より車重は重くなるがミッドシップモデルとしての資質とバランスの良さをもつ「308GT4」は、デビュー翌年の1974年には、北米のフェラーリ・インポーター、ルイジ・キネッティ率いるN.A.R.T(ノース・アメリカン・レーシング・チーム)によりレーシングカーに仕立てられ「308GT4/LM」としてル・マン24時間耐久レースに参戦している。このクルマはフェラーリ本社のレース部門でコンペティション・トリムが施され「デイトナ」用ピストン/コンロッドが組み込まれ300馬力にパワーアップされたエンジンを搭載、「BB」用マスターバックにより制動系にも磨きがかけられたモデル。流麗な「ディーノ246GT」からウェッジシェイプの2+2ボディにドラスティックな変化を見せた「ディーノ308GT4」は、発売当時より、俯瞰でこの当時の流れが見える現在の方が理解されやすく、同時代の「ランチア・ストラトス」にも通じるデザインをもつ、フェラーリとしては異色の個性あふれるモデルとなっている。︎搭載されるエンジンは、F106A型とよばれるオールアルミ製90°V型8気筒DOHC16バルブとなり、ボア・ストロークは81.0mm×71.0mmで2926.9ccの排気量をもつ。「BB」のエンジン同様、ジュリアーノ・デ・アンジェリス技師を中心とする開発チームにより、新たに設計されたエンジンとなっている。燃焼室から、クランク軸受けまわり、大小端距離137mmのコンロッド、94mmのボア間ピッチ寸法、動弁系に至るまで「365GT/4BB」のエンジン(F102A型)から流用され仕立てられたものとなる。それは「デイトナ」とも共通という意味をもち、単気筒容積365ccとなっている。ダウンドラフト・ツインチョーク・ウェーバー40DCNFを4基備え、圧縮比8.8から最高出力250馬力/7700rpm、最大トルク29.0kgm/5000rpmを発揮する。片バンクあたり2本のカムシャフトから一旦ギアで減速され、それぞれのバンクに専用のコックドベルトで駆動される。先に市場に出た「308GT4」のエンジンは、ディストリビューターを各バンクごとに1つずつ持つツイン・デスビでウェットサンプ方式が採用されている。「308GTB」用エンジンは、オイル循環がドライサンプ方式となり、その為のオイルタンクが装備される事で、ディストリビューターが前バンクにひとつだのシングル・デスビとなっている。横置き搭載されるエンジンのTeksid社製の鍛造クランクシャフトから出力されたパワーは、エンジン左脇にあるケース内の3枚のギアに伝わり、そのギア3枚分だけ下にある、フェラーリ自社製の2軸式5速ミッションに送られ、ロッキングファクター40%のLSDの付いたディファレンシャルに届けられドライブシャフトを回し駆動する。足回りは、前後ダブルウィッシュボーン式となりコニ製ショックアブソーバーを備える。サス・アームは前後とも大型の鋼板組立式Aアームを上下不等長並行配置するレイアウトとなり、それはレーシングカーの文法に則ったもので、前18mm径、後11.5mm径のスタビライザーを装備する。ブレーキはフロント271mm径×22mm、リア277mm径×20mmのベンチレーテッドディスクを備え、フロント・リアともにAte製の対向ピストンキャリパーが組み合わされる。タイヤは4輪とも205/70VR14サイズとなり、6.5J×14サイズのクロモドラ製アルミホイールと組見合わされる。インテリアは、先代となる「ディーノ246GT」の印象を残しつつ、3スポークのモモ製ステアリングの奥にある、両サイドで折れ曲がったメーターパネルはベルトーネの作風を感じさせるものとなる。8つのメーターを装備する「246GT」に対し「308GT4」は7つとなり、電流計が廃されている。メーター類は、他のフェラーリと同様に全てVeglia製となっている。またフェラーリ各モデルに備わるメタル製のゲートの切られた5MTのシフトレバーは、シンプルな丸いノブが備わり、奇をてらったデザインもなく、フェラーリの文法にのっとった扱いやすいものとなっている。左右の張り出しの少ないフロント・シートはサイドのレバーを操作するだけで前に倒せて、後席へのアクセスは良好となる。子供なら余裕で実用となるリア・シートは小さな荷物すら置き場に困る2シーターのミッドシップモデルには望めない広さが魅力となっている。リア・オーバーハング部には独立したラゲッジルームがあり幅、深さとも実用性の高いものとなっている。全長×全幅×全高は4320mm×1800mm×1210mm、ホイールベース2550mm、トレッド前後ともに1460mm、車両重量1300kgとなっている。燃料タンク容量80ℓ、最小回転半径6.25m、新車時価格1150万円(1980年当時の価格で308GTBは1170万円)となり、生産台数は2826台。︎メーカー公表性能値は、最高速度250km/h、0→400m加速14.4秒、0→1km加速26.2秒となる。カーグラフィック誌によると1974年にベルギーのフェラーリディーラー、エキュリー・フランコルシャン所有の「308GT4」を、フォルクスワーゲンのエーラ・レッシェン・テストコースに持ち込み実測テストしたレポートが掲載され0→100km加速6.9秒、0→400m加速14.6秒、0→1km加速26.7秒、最高速度243.2km/hを記録している。︎シンプルなラインと面で構成された「308GT4」のボディは、まとまりのあるスタイリングを構築し、実車は思ったよりコンパクトなボディに感じられる。フェラーリらしい華やかさに、若干欠けると言えなくも無いが、ノーブルとも表現出来る、時代に流されない佇まいと個性が感じられる。ドアを開けドライバーズシートに腰を下ろすのに、普通のクルマに乗り込む様に、あまりその低さを意識させない乗降性の良さをもつ。キャビンは、リアにバルクヘッドが迫る2シーター・ミッドシップモデルと異なり、それほど緊張感を感じさせないが、一般的なクルマはもちろん、ミッドシップモデルや他のスポーツカー達と比べても、着座位置が前進している感じは強い。また傾斜の強いフロントウィンドウが頭上に迫り、ステアリングがやや寝ていることで、シートポジションはステアリングに合わせるとペダル類が近くなるイタリアン・ポジションとなる。そのペダル類は車体中央にオフセットし、クラッチは踏みごたえのあるタイプとなるが、つながりはスムーズとなり扱いやすい。全ての操作系がガッシリとして剛性があり、ただ重いと表現出来るものではなく、例えばステアリングはシャフトも支持部も剛性が高く、ステアリングで前輪の感覚がダイレクトに感じられ、まさにこの時代のチューブラーフレームをもつフェラーリならではの味わいを持っている。シフトも同様で、軽い操作で扱いやすいものではないが、充分な剛性が感じられ回転が合った時は、思いの外スムーズに決まる。シフトチェンジ時にチェンジレバーがゲートに当たる感触は独特な魅力を感じさせてくれる。アクセルを踏み込むと、回転はスムーズに上昇し1速では軽く5000rpmを超える程の勢いが感じられる。吸気音と排気音の絶妙にミックスされたサウンドは4000rpm付近から一段と鋭くなると同時に、上げ足を速め7000rpmにむけ素晴らしいサウンドとパワー感が楽しめる。街乗りでは硬めとなる乗り味は、高速クルージングになるとフラット感を強めハイスピード・クルージングが可能となる。ロードホールディング性能は驚くほど高く、ほぼニュートラルに感じられるハンドリングが味わえる。ロールは控えめでアクセル・オフによる姿勢変化も極めて少ない。広いキャビンは、実用性が高く全方位に開けた視界をもち、ドライビングのし易さが強調されがちだか、脈々と流れるフェラーリならではの骨太なスポーツカーとしての味わいも、たっぷりと感じられる「フェラーリ」と「ディーノ」のふたつのエンブレムを持つ、異端のフェラーリとして価値をもつ一台となっている。