ポルシェ911カレラ
PDK
サンルーフ、シートヒーター、スポーツエグゾースト、ナビ、TV、バックカメラ、ETCが装備されております。
︎2011年8月29日、ドイツ南部の街、シュツットガルト近郊の本社に隣接するポルシェ博物館で「911カレラ・スニークプレビュー」が開催され「991型カレラ」はそこではじめて公開された。先代となる「997型カレラ」から「998型」と型式を継承しなかったのは、続き番号にすることで開発中の部品が次期「911」のものと漏洩してしまうのを防ぐためと「997型」のエボリューションモデルでは無く、それ以上に大きな変化・進化が込められた事による。先代の「997型カレラ」に比べ一挙に大型化されるという事前情報が広まる中で、車幅はほぼ同寸の1808mm、全長も56mmという僅かな増加に留まり、ボディサイズの大きな変更は行われなかった。大きくなったように見えるとすれば、100mm延ばされたホイールベースと、拡大されたフロントトレッド、それに伴いより幅広い間隔で、外側にレイアウトされた「911」の特徴となる丸型のヘッドライトによるもの。LEDテクノロジーを用いたテールランプは、シャープな薄型形状とされリア回りはランプ上方レベルで、リアエンドを取り巻く水平ラインが強調され、先代との変化がわかりやすい。ルーフラインが数ミリ下げられ、ウィンドウグラフィックがスリークな形状にリファインされることで、伸びやかで「モダンな911」というイメージのボディデザインは、より「911」らしいデザインを追求した結果だといわれている。そのボディデザインは、メルセデスベンツで初代「SLK」を手がけ「スマート」や「サーブ」を経て2004年にポルシェ・デザイン部門に移籍し、「993型カレラ」をデザインしたハーム・ラガーイの後任としてチーフとなったミハエル・マウアーによるもの。マウアーはナロー時代の「911」がもつ美しいシルエットを意識しつながら、リアフェンダーの織りなす曲面や、丸型ヘッドライトカバーにバブル形状の膨らみを持たせるなど、細部にわたりこだわったデザイン表現を用いている。「991型カレラ」の正式なショーデビューは2011年9月のフランクフルトショーとなる。前世紀末にフラット6エンジンが水冷化され「996型カレラ」として登場した「911」は、キープコンセプトともいえる「997型カレラ」に進化した後、この「991型」では久しぶりの「フルモデルチェンジ」に近い、使用部品の95%が刷新された「911」となっている。先代までの頑強な鋼板製のモノコックボディは、様々な種類のスチールに加え、アルミやマグネシウムなどを用いたハイブリッド構造となり、モノコック単体で45kg軽く仕上げられている。フロントフェンダー、トランク・フード、ドア、リア・エンジンリッドはアルミ製とされ、インテリアトリムの樹脂素材の最適化により、さらなる軽量化もほどこされている。「991型」では先代に比べ、静的捩れ剛性で25%、動的捩れ剛性で20%、固有振動数で13%の向上が図られ、軽量化されながらも剛性アップも達成されている。ダイエットされたボディに対しパワーアップしたエンジンを搭載、組み合わされるギアボックスは、新型7段PDKと、これをベースに乗用車史上初となる7段MTが設定されている。新たに採用された電動パワーステアリングは、良好なタッチとナチュラルな感触により洗練されたフィーリングをもちながらも、路面からのキックバックが少なくおさえられ、古くからの「911」ファンには少し物足りなく感じられるかもしれない。120km/hで上昇し、80km/hで格納される電動式リア・スポイラーは、空力的に有効な範囲が898mmから1137mmに拡大され、サイドウィンドウ前端からドアパネルに移設したサイド・ミラーやフラット化されたフロアパネル、冷却システムの刷新により、ワイドタイヤ装着にもかかわらずCd値は0.29へと向上している。「964型」以降全ての「911」開発に携わり「991型」の開発も担当した、チーフ・プロジェクト・エンジニアのアウグスト・アハライトナーは「あらゆる重要な分野で991型は一歩前進している」とコメントを残している。また、2006年以降ポルシェの開発プロジェクト・チームに加わった伝説のラリー・ドライバー、ヴァルター・レアルは「991型は、バランスが良くドライバーに従順で、これ以上手の入れようの無いクルマ」と高い完成度を力説している。︎今回入荷した2015年式「911カレラPDK」に搭載されるエンジンは、MA104型とよばれるオールアルミ製の水冷式・水平対向直噴6気筒DOHC24バルブエンジンとなり、ボア×ストローク97mm×77.5mmで、3436ccの排気量を得る。MA104型エンジンは先代の「997型カレラ」が搭載するMA102型エンジンに比べ178cc少ない排気量となっている。これは、ボアは共通ながらストロークを「997型カレラS」用の3.8ℓ・MA101型のコンロッドを用いる事で4mmショート・ストローク化した事によるもの。排気量を下げながらも12.5の圧縮比をもち、最高出力は350馬力/7400rpm、最大トルク39.8kgm/5600rpmを発揮、「997型カレラ」に比べ、5馬力アップと同等のトルク値を実現している。排気量を縮小しながらもパフォーマンス・アップが実現出来たのは、マルチホールインジェクターの見直しによる燃焼効率の改善や、インテークマニホールドの吸入抵抗の最適化(エアフィルターの高効率化と圧力センサーの交換)、オンデマンド・オイルポンプの採用、アルミ製カムシャフト・ポジショナーなどによる軽量化の成果となる。また「911」の歴史始まって以来となる、CO2排出量削減にも取り組み、ヨーロッパの計測法NEDCによるデータで「カレラPDK」が、200g/kmを割り込んで、ラインナップ中最低となる194g/kmを達成している。ハイパフォーマンスと高い環境性能を実現したこのエンジンは、2015年9月に実施される「後期モデル」へのマイナーチェンジによりターボ化されてしまう事を考えると、1963年に誕生した「911」用の自然吸気型フラット6エンジンとしての最終進化型ともなっている。組み合わされるトランスミッションは、新型7段PDK(ポルシェ・ドッペルクップルング=Porsche Doppelkupplung)となり、奇数・偶数段それぞれのギアごとに独立したクラッチをもつ、デュアルクラッチ式ATで、シームレスに瞬時の変速が可能となっている。足回りは、フロント・マクファーソンストラット式、リア・マルチリンク式となる。ブレーキは4輪ともに330mm径×28mm厚のドリルド・ベンチレーテッドディスクを備え、4ピストンのアルミ製モノブロック・キャリパーと組み合わされる。ホイールは先代の「997型カレラ」から1インチアップとなり19インチ化され、フロント8.5J×19、リア11J×19サイズに235/40ZR19と285/35ZR19サイズのタイヤがそれぞれ組み合わされている。︎インテリアは「991型カレラ」の最大の特徴ともいえるエリアであり、デザイナーのミハエル・マウアーによると「ライジング・コンソール」とよばれるセンターコンソールが採用されている。これはダッシュボード中央部分から手前になだらかに下降線を描く形状を指し「カレラGT」とも共通するデザインとなり、同時代の「パナメーラ」や「カイエン」と通じるイメージで仕上げられている。今回入荷した車両には、ヘッドルームを犠牲にしないオプションのチルト/スライド式パノラミック・サンルーフが装備され、その3ウェイ・スイッチもこのコンソールにレイアウトされている。また、それまで長期にわたりシートの間に存在したパーキングブレーキレバーは無くなり、ヒルホールドとオートリリース機能のついた電動パーキングブレーキとなってダッシュボード左下のヘッドライト操作スイッチの下に、操作ボタンが存在する。3スポークのステアリングの奥には中央に大径のタコメーターを配した、歴代「911」伝統の5連丸型メーターをおさめるクラスターがレイアウトされている。タコメーターの右に位置するエリアは、液晶モニターとされオーディオやオンボードコンピューターなどの情報が表示される。「911」伝統のステアリングポスト左側に位置するキーシリンダーに変更は無い。多くのクルマ達がプッシュ式のエンジンスタート・スイッチを採用する中、ポルシェは電子キーを捻ってエンジンスタートすることを選んだが、少々残念に思うのは、電子キーのデザインが「911」というより「パナメーラ」風に見える事。6mm低くなったルーフにより、着座位置は13mm下げられヘッドルームは僅かに増えている。しかしホイールベースが延長された割にはレッグルームは、前席で25mm、後席では7mm、前後方向に空間が広められているだけにとどまる。新型になっても「997型カレラ」から、大きく容積を変えられていないこの空間は、スポーツカーらしいというより、敢えて「911」らしいタイトなキャビンと呼べるものが継承されている。︎全長×全幅×全高は4491mm×1808mm×1303mm、ホイールベース2450mm、トレッド前1532mm、後1518mmとなり、車両重量は1400kg。燃料タンク容量64ℓ、最小回転半径5.2mで、新車時価格は1190万円となっている。︎メーカー公表性能値は0→100km/h加速4.6秒(4.8秒)、0→200km/h加速15.7秒(16.2秒)、最高速度287km/h(289km/h)となる。( )内の数値はMTモデルのものとなっている。カーグラフィック誌による実測データでは、0→100km/h加速5.27秒、0→200km/h加速17.6秒、0→400m加速13.33秒、0→1km加速24.0秒で、最高速度は259km/hとなり、5速・7600rpmまでの測定値となっている。︎「996型」から正常進化した「997型」へのモデルチェンジ時とは異なり、ほぼゼロからの新設計となる「991型カレラ」は、ひとつ前のモデルとの変化、或いは進化を最も感じられる「911」となっている。そのミハエル・マウアーによるキャブ・フォワード・デザインとされた佇まいは「911」らしさを強く感じさせるだけではなく先代に比べよりモダンなものへと進化している。かつての「911」を体感したドライバーは、あらゆる動きが全てスムーズで、滑らかになっている事に驚かされるかもしれない。また、初めて「911」を走らせる人にとっても、極めて静かなロードノイズやミニマムに保たれた風切り音により、後ろからのエンジン音だけがクリアに、素晴らしく良い音でクローズアップされて聴こえる事により「911」をドライブしている時間をより深く堪能出来る。良好な乗り心地は、延長されたホイールベースと、良く動いてくれる足回りによるもので、ピッチングが少なくフラット感が保たれ快適な移動空間となっている。「金庫の中にいる様」と表現される重厚な雰囲気は影をひそめ、動き出しから軽快さを主張し、スチールのしっとりと粘りのある剛性感とは異質の、ややドライなオールアルミ製ボディの他車にも通じる部分が感じられる。3.4ℓのフラット6は、レブリミットまで軽く回る実力をもちながら、普通に街中を流す回転域に於いても充分なトルクが感じられ、気持ちの良いエンジンとなっている。右足に即応するトラクション、トルク感、そしてレスポンスともに「911」らしさに溢れるものとなる。これには新型となった7段PDKの制御が巧みになっている影響も大きく、あらゆるシチュエーションでスムーズさを増し、洗練されたところを見せつけられる。高い領域の性能は言うに及ばず、日常での使いやすさも含め、長い時間の中で進化し続けてきた「911」の美点はとてもわかりやすいものとなっている。PDKモデルの100km/h時のエンジン回転数は、7速MTモデルより更に低く1700rpmとなり、アイドリング・ストップやコースティング機能も加え、環境にも配慮されたモデルとなっている。ロングホイールベース化されていてもワインディングロードに持ち込めばイメージ通り「911」らしく走らせる事は可能で、その動きに鈍さはまるで感じられず、むしろワイドトレッド化と大径化されたタイヤにより、フロントが強く舵の効きが良くなった様に感じられる。タイトなコーナーは軽快にこなし、速度の高まる中・高速コーナーでは安定感がより高く感じられ、安心して攻めやすい方向に味付けされている。また電動化されたステアリングは、こんな場面でも極めてリニアなアシスト特性をもつ事で、自然なフィールに終始しセルフセンタリングも完璧といえるレベルとなる。「991型カレラ」は「911」としては驚く程の快適性を実現しているが、それがピュアな操縦性を阻害する事は全く無く、むしろ強力なグリップとしなやかさ、舵の効きの良いスタビリティが両立されている事が走らせてみると強く印象に残る。「991型カレラ」は、1964年から製造が始まった「911」が、それまでに無い飛躍した完成度を見せ、伝統の自然吸気フラット6エンジンを搭載する、貴重な最終モデルといえるのかもしれない…