サイズ
長 494 cm 幅 192 cm 高 135 cm
[ オプション装備]バング&オルフセンオーディオ・シートヒーター&ベンチュレーション・リアエンターテーメントモニター(ヘッドフォン付)
アルカンタラルーフライナー・フロントリアパークセンサー・カラードブレーキキャリパー・パドルシフト付レザーステアリング
マルチスポーク20インチホイール[社外装備]ポップアップナビ・バックカメラ・ETC・GPSレーダー・ドライブレコーダー
新車並行輸入車両・2オーナー・取扱説明書(日本語版)・スペアキー・記録資料(記録、請求明細等)多数揃っております。
︎2006年のデトロイト・ショーでアストンマーティンより発表されたプロトタイプの「ラピード・コンセプト」は、同社がこれまでに送り出してきたクーペ・モデルが持っている、速さと美しさをもつ4ドア・サルーン・モデルとなり多くの衆目を集めた。そして2009年のフランクフルト・ショーでようやく市販モデルとしてデビューを飾る「アストンマーティン・ラピード」は、伝統のハンドビルドによるV12エンジンが搭載され、高い性能をもつシャーシにより、これまでに無い魅力溢れるラクシュリー&スポーツ・サルーンとして期待以上の仕上がりを見せた。車名の「ラピード」とは、1935年の「ル・マン」で優勝を果たした「ラゴンダM45ラピード」に由来する。戦後、高級車メーカーのラゴンダを傘下におさめたアストンマーティンは1961年「M45ラピード」にちなんで「アストンマーティンDB4」をベースに新たな4ℓエンジンを搭載した4ドア・サルーンとして「ラゴンダ・ラピード」を発表する。旧ラゴンダ時代から続く名称を受け継ぐ「アストンマーティン・ラピード」は、新時代のアストンマーティンとして新たなマーケットに踏み出したモデルとなる。大柄なボディを持つにも関わらずどこから見ても紛れもなくアストンマーティンに見える「ラピード」のボディデザインは、ランドローバー、ロールス・ロイス、フォードでキャリアを重ねたマレク・ライヒマン率いるチームによるもの。フロントエンドの形状は「DB9」をベースとしているものの、上下2分割されたグリルの採用はアストンマーティンとしては初めてのデザインとなっている。ボディを構成する曲線は極めて優美で無駄がなく、単に「ストレッチして4ドアにしたDB9」では無い事がわかる。シャーシは、この時代のアストンマーティンと同様にアルミ押し出し材を接着工法により構築した、軽量で頑強なVHプラットフォームが採用されている。新たに設計されたリアセクションに加え、ホイールベースは3m近くまでストレッチ、燃料タンクの搭載位置も異なっている。ホイールベースが延長されても28000Nm/degという高い捻り剛性を確保し、その補強部材を考慮すれば、車両重量を「DB9」から+190kgで収められているのは特筆すべきことと言えるだろう。2000年からアストンマーティンCEOとなったウルリッヒ・ベッツは、GMのボブ・ラッツ、フォルクスワーゲン・グループを率いたフェルディナント・ピエヒと並び、筋金入りのカーガイと称される人物。ベッツは「デザインで妥協することなく、少しずつスペースを延長して必要なレッグルームを捻出することで、ラインナップに新たな4ドア・モデルを加えたかった」と語った。「ラピード」はスタイル最優先で開発され、同社初となる4ドア・スポーツカーでもあるという。さらに「後席スペースの広さに固執する人もいるが、このクラスのモデルで4人乗車で長距離を移動する機会は、以外な程少ない」とも語っている。こうした考えのもとにつくられた「ラピード」の後席はヒップポイントも低く、スリムで美しくデザインされ、確かなクラフトマンシップを感じさせる空間となっている。ひとたびそこにおさまれば、身体が何処かに干渉することは無いが大人にとってはピッタリという以上の余裕は感じられない。頭上はそこそこ広く、足先は狭く膝前のスペースに欠け「+2シート」より広いが「フル4シート」には満たないスペースとなる。アストンマーティンのエンジニアは「もしニュルブルクリンクのコースでラピードを走らせる事が出来れば、その伝説的なコースの多種多様なコーナーとストレート、更なる激しいアップダウンと凹凸の路面を鮮やかに走り抜けられることを体感すると、ドライバーはリアシートの存在を完全に忘れてしまうだろう」と語る。エンジニアの主張どおり「ラピード」は、これほどのサイズのクルマのわりに極めてフットワークが軽くドライビングが容易で、ハードに走らせてもしっかりとした接地感を味わうことが出来、安定した振る舞いを見せるセッティングが施されているのがわかる。4枚のドアが装備されていても、2ドア・クーペに劣らぬ洗練されたハンドリングがそのに再現されている。「ラピード」はオーストリアのグラーツにあるマグナ・シュタイアで委託生産され、イギリス国外で生産された初めてのアストンマーティンとなる。「アストンマーティン・ラピード」に搭載されるエンジンはオールアルミ製60°V型12気筒DOHC48バルブでボア×ストローク89.0mm×79.5mmから5935ccの排気量を得る。10.5の圧縮比をもち最高出力470馬力/6000rpm、最大トルク61.2kgm/5000rpmを発揮する。このV12気筒エンジンは「ジャガーXJ-S」用として誕生し「アストンマーティンDB7」にも搭載されていた直列6気筒に代わるものとして、フォード・アドバンスト・ヴィークル・テクノロジー・グループにより開発され1996年デトロイトショーで「フォード・インディゴ」に積まれお披露目されたものとなっている。その基本設計は、DOHC4バルブのヘッド、及びブロックをもつフォードの60°V6ユニット「デュラテック」がベースとなりボア・ストローク、吸排気バルブ、ピストン、コンロッド、バルブギアも転用されている。主要部品の鋳造作業、組み立て作業はコスワース社が英国で担当していたが、2004年にドイツ・ケルンに完成した専用エンジン工場でハンドビルドにより生産され、組み上げた職人のサイン入りプレートが付けられたものとなる。当初生産を受け持っていたコスワース社は、ドイツ・マーレ社の傘下となり2005年からマーレ・パワートレインと呼ばれるようになった。「ラピード」のV12気筒エンジンは、フロントミッドシップで低く搭載され、後方にトランスアクスル方式で置かれたギアボックスとアルミ製のトルクチューブで結合され、中をカーボンファイバー製プロペラシャフトが通る。組み合わされる「タッチトロニック2」とよばれるオートマチック・トランスミッションはZF製6段トルコンATとなる。自動変速による瞬時のギアチェンジによりスムーズでショックレスな走行が出来、ステアリング裏に備わるパドル操作で、任意にマニュアルシフトが可能となる。バイワイヤー技術が採用され、シフトダウン時にはエンジン回転合わせの為の中ぶかしにより、その鮮やかなダウンシフトはセミATを凌ぐ性能を見せる。スポーツドライビングに適しているのに加え、エンジンの性能を余す事なく引き出す事が可能となり、ATのハンディを全く感じさせない優れたトルコンATとなっている。足回りは鍛造アルミ製アームで構成される前後ダブルウィシュボーン式となり電子制御式ダンパーが備わる。「ADS(アダプティブ・ダンピング・システム)」と呼ばれる、5段階切り替え式の、このダンピング・システムはスポーツモードを選択すると最も固いセッティングに固定される。ブレーキは、4輪ベンチレーテッドディスクとなり「デュアルキャスト・ディスク」が採用されている。これはブレーキパッドのあたるディスク部分が鉄で、中心部分にアルミが採用されるもので、従来のものと比べ15〜20%軽量化されるといわれている。フロント390mm、リア360mm径のディスクと組み合わされるのは、ブレンボ製フロント対向6ピストン、リア4ピストンのモノブロックキャリパーとなる。サルーンとしては充分に信頼出来る、極めて高い制動力やコントロール性をもったものとなっている。ホイールは前後20インチとなり、組み合わされるタイヤサイズはフロント245/40R20、リア295/35R20となる。︎インテリアは、他のアストンマーティンから基本的なレイアウトを受け継いで構成され、アストンマーティン各モデルと同様に高いクオリティで仕立てられたものとなる。ギアチェンジ用のパドルが備わるステアリングを通して、ドライバー正面には大径の330km/h迄、刻まれたスピードメーターと、通常とは逆方向に回転する8000rpm迄のタコメーターが並ぶ。高めに設られたセンターコンソール上にギアセレクターレバーは存在せず、ダッシュボード中央に置かれたエンブレムが描かれたクリスタル製のキーをおさめるキーホールの左右にギア・セレクト用のボタンがレイアウトされている。シートはヘッドレスト一体型となるバケットタイプとなり、そのデザインはリア・シートにも反映される。左右独立したリアシートはフロントシートと似たハイバックのバケットタイプとなりシートバック左右個別に折りたたむことが可能で、荷室容量は317ℓから最大886ℓまで拡大することが出来る。金属製のレールが貼られた荷室手前のボードは前方へ引き起こすことで、キャビンと荷室を隔てることが可能となっている。また「ラピード」の室内空間のためにカスタマイズされたバング&オルフセン製オーディオが装備されダッシュボード左右にもポップアップ式スピーカーを備える。独特なデザインがされた後席のアシストグリップは、使用しない時はピラーにマグネットで固定されるスマートな造りが特徴となっている。全長×全幅×全高は、5019mm×1930mm×1360mmでホイールベースは2990mm、前後重量配分は51:49で、燃料タンク容量は78ℓ、車両重量1950kgとなっている。新車時販売価格は2268万円。︎「アストンマーティン・ラピード」の公表性能値は0→100km/h加速5.2秒、最高速度296km/hとなる。当時アストンマーティンCEOだったウルリッヒ・ベッツは、2010年5月に自ら「ラピード」のステアリングを握って「ニュルブルクリンク24時間レース」に出場する。レース仕様の「ラピード」は安全性確保の為の装備と、軽量化を目的とした内装の取り外し、サスペンションチューニングとスリックタイヤの装着以外、市販モデルと同等の仕様となっている。2008年に同レースに65歳にして出場したベッツは「V8ヴァンテージN24」でSP8クラス3位の成績を残した。2010年の「ニュルブルクリンク24時間レース」は決勝198台で争われ、ゼッケン7番を付けブルーのボディを纏った「ラピード」は、見事SP8クラス2位に入賞(総合34位)、その高いポテンシャルと耐久性を証明して見せた。また同SP8クラス3位には「V12ヴァンテージ」が入賞(総合39位)することで、アストンマーティンの長い歴史にまた新たな栄光の1ページを加える事となった。サルーンと呼ぶには流麗すぎるボディデザインをもつ「ラピード」は、1400mm台後半が当たり前のこのクラスに於いて1360mmという、低いボディをもつ。指で前方を押し込むと持ち上がるドアハンドルを引いてドアを開けると「DB9」同様、12度の角度が付けられた「シザー・ヒンジ」により、やや上方に開く「スワンウィング・ドア」は、開口部をより大きくとれる構造をもち、低いボディへのアクセスを容易にしてくれる。大柄なボディから想像するより遥かにタイトなキャビンはレイアウト、マテリアルともに、この時代のアストンマーティン各車に共通する仕立てとなっている。エンジンを始動させると勇ましい排気音とともにアイドリングが始まる。ギア・セレクトボタンを操作し、ゆっくりと動き出す。トランスアクスル方式による6速トルコンATをもつ「ラピード」は、シフトショックも過大なトルコンスリップも感じさせる事なく、いかなるスピードでも極めてスムーズに走らせる事が可能となる。コスワースの協力により開発されたV12気筒エンジンは、低回転域での滑らかさゆえパンチが足らないと感じられる場合は、スポーツモードが選択出来る。スポーツモード選択時はエンジン回転数がレッドゾーンに達しても、そのギアをキープし続けその回転数を維持する設定となる。濃密に回るV12エンジンの古典的な味わいは、アクセル開度に比例して心地良くパワーを重ねてゆく。3500rpmを超えると排気系のバルブの作動により、ドラマチックに音色が変化し始める。湿り気を帯びた管楽器の様な快音と、レッドゾーンとなる7000rpmまで伸び上がる様な加速感は、12気筒フェラーリともランボルギーニとも全く異なるアストンマーティンだけの世界を見せてくれる。固めの乗り心地は、電子制御ダンパーで標準モードを選択することでソフトなストロークを得る事が可能となっている。切った分だけリニアに反応するステアリングは、左右にクルマを振る動きの中で2トンに迫る車重を感じさることなく、軽快にコーナリングすることが可能となる。4つのドアをもちながらも、並のサルーンとは全く次元の異なるその走りはスポーツカーであることを主張しているようだ。このコーナリング時の強い味方となるのが初採用された「デュアルキャスト・ディスク」を備えるブレーキシステムで制動力やコントロール性も高く、サルーンとしては申し分ない存在となる。アルミVHプラットフォームが採用されてはいるが、V12気筒エンジンとトランスアクスル方式による6速トルコンATというコンベンショナルな成り立ちをもつ「ラピード」はドライバビリティに優れ、どこから見てもアストンマーティンらしいスタイリッシュなサルーンに仕立られている。SUV人気とエレクトリックパワーを採用するサイレント・スポーツが注目される現在では、時代を感じさせるものと映るかもしれない。それでも長い歴史に裏付けされた、アストンマーティンによるラクシュリー&スポーツ・サルーンの「ラピード」のみがもつ個性は、他のモデルではけして味わう事の出来ない、唯一無二のものと言えるだろう…