サイズ
長 450.0 cm 幅 204.0 cm 高 110.0 cm
1990年発表の「ディアブロ」は、クライスラー傘下となったランボルギーニにおいて、それまでのイメージリーダーであった「カウンタック」の後継車としてスマッシュヒットを記録し、再びランボルギーニ社を救う存在になった。しかし「ディアブロ」がデビューしてからわずか3年の間に「ディアブロ」が持つ最高速度を脅かす存在として「マクラーレンF1」や「ブガッティEB110」が登場した事で、より高性能な「ディアブロ」の存在が求められ、開発されたのが「ディアブロSE30」となる。発表は1993年9月に開催されたランボルギーニ・デイ3の会場とされたサンタアガタのファクトリーで行われた。車名の「SE」は「スペシャルエディション」の頭文字を表し「30」は「ランボルギーニ社の創業30周年」を意味する。ベースモデルに比べ高性能を誇る「ディアブロSE30」は、よりハイパワーなエンジンを搭載し、軽量化が施された特別仕様の限定車となっている。「ディアブロSE30」のエクステリアは「ディアブロ」のデザイナーである、マルチェロ・ガンディーニにより、更にリファインが施され、ひと目でノーマルモデルと識別出来る。アグレッシブにリデザインされたフロント・バンパーにはじまり、リア・ホイールアーチ直前の大きなインテークが付いたサイド・スカート、そして可変フラップ付きのリア・ウィングで構成されたものとなっている。ランボルギーニ社では「ディアブロ」発表に際してもボディ・パネルに新素材を採用していたが「SE30」では、更なる軽量化の為にエンジンカバーやサイドシルなどにカーボンファイバー素材が用いられている。また前後17インチホイールを装備するノーマルモデルに対して「SE30」ではフロント17インチ、リア18インチの専用デザインが施された異径マグネシウムホイールを採用し、4WDとなる「ディアブロVT」をベースとするのではなく、より軽量な2WDの「ディアブロ」をベースモデルとしながら開発が行われた。この開発の指揮をしたのは、マセラティ社からランボルギーニ社に移籍し、技術チーフとして働いたジュリオ・アルフィエーリの後釜となったチーフ・エンジニアのルイジ・マルミローリ技師。「ディアブロSE30」が発表された1993年は、ランボルギーニ社創業30周年の記念すべき年であると同時に、特別な年にあたる。それは創業者であるフェルッチオ・ランボルギーニが76歳の生涯に幕を閉じるという年でもあった。後継者達は、その悲しみを乗り越えて「ディアブロ」のエボリューション・モデルとなる「SE30」をベースにランボルギーニ社としての新たな活動として、1995年のJGTC(全日本GT選手権)参戦の為にレーシングモデルの製作を行った。フェルッチオの時代のランボルギーニ社は「レースには出ない」という社是があり、それはフェルッチオ自身ミッレミリアに出場し大ケガを負った経験や、その当時レースに興味を持ち始めた息子を刺激したくなかったという思いが元となっていたようだ。レーシングモデル製作はフェルッチオ没後の1994年、日本で「カウンタック・アニバーサリー」をベースにレース活動をしていたJLOC(ジャパン・ランボルギーニ・オーナーズ・クラブ)からの依頼がきっかけとなり、F1エンジン製作の中枢であるランボルギーニ・エンジニアリングで開発が行われる事となった。そのレーシングモデルの車名もフェルッチオ時代の代表作「ミウラ」から派生したレーシングモデルのプロトタイプともいえる「イオタ」にあやかって「ディアブロ・イオタ」と名付けられた。このレース活動をきっかけに1996年にはワンメークレース用の「ディアブロGTR」が製作され、その後「ディアブロGT1」「ディアブロGT2」に発展、そのノウハウがロードモデルにフィードバックされながら性能向上がはかられた「ディアブロ」は2000年まで進化し続けながらランボルギーニ社の新たなイメージリーダーとなった。「ディアブロSE30」に搭載されるエンジンはL522型とよばれるベースモデルに用いられた水冷60°V型12気筒DOHC48バルブエンジンをもとにチューニングされたものとなる。ボア・ストローク87mm×80mmで10.0の圧縮比から最高出力525馬力/7100rpm、最大トルク59.2kgm/7100rpmを発揮する。改良が施されたエンジンは、軽量化されたクランクシャフトを備え、専用のマグネシウム製インテークマニフォールドが採用されている。またL.I.E(ランボルギーニ・イニエツィオーネ・エレクトリカ)とよばれるランボルギーニ社によるオリジナル・シーケンシャルインジェクションのセッティングが見直され、更にフリーフローエグゾーストシステムを装備することによりベースモデルから33馬力のパワーアップとなっている。トランスミッションは強化された5速MTが採用され、リアデフにはLSDを装備する。足回りは、フロント・リアともに強化されたダブルウィシュボーン式となりスタビライザーを備え、リアのみダンパー・コイルを2本ずつ装備している。「SE30」専用装備としてスタビライザーのセッティングをコックピット内のセンターコンソールに設けられた小さなレバーにより3段階の調整が可能となり、コーナーでの姿勢変化の違いが楽しめる。ブレーキはフロント330×32mmサイズ、リア284×28mmサイズにアップされたベンチレーテッドディスクを備え、ブレンボ社製4ポットキャリパーが組み合わされABSが装備される。ホイールサイズは、フロント8.5J×17インチ、リア13J×18インチの「SE30」専用デザインが採用されたOZレーシング製マグネシウムホイールを装備し、235/40ZR17、335/30ZR18サイズのタイヤとそれぞれ組み合わされている。更にホイールボルトにはチタニウム製を採用するという軽量化にこだわった仕様となっている。︎インテリアは、目にするところのほとんどをアルカンターラとカーボンパネルで覆い尽くされベースモデルとは異なる、スペシャルエディションならではの仕立てとなっている。スライド機構しか持たないシートは、カーボンファイバー製シートベースが採用され、ダッシュボードと同じくアルカンターラ表皮となり、ヘッドレストにはファイティングブルの刺繍があしらわれる。特徴的なデザインのサイドウィンドウは軽量化の為、プレキシグラスによるはめ殺しとなり、僅かに手動式のチケットウィンドウともいえる一部エリアが開閉出来るのみとなる。(今回入荷した車両は、特別に手動式からパワーウィンドウに変更されている)太めの皮巻きステアリングを通して見える、白地に赤いレタリングが施されたメーター類は「SE30」専用装備のVDO製となり、スピードメーターは360km/hまで刻まれている。ABCペダルは軽合金製となり、デリケートな軽め穴が開けられ、クラッチの動作はスムーズで500馬力オーバーのパワーを伝える役割から想像する程、重くはない。︎全長×全幅×全高は4507mm×2040mm×1105mm、ホイールベース2650mm、トレッド前1540mm、後1640mmとなる。車両重量は1450kg(ベースモデルから126kgの軽量化が施されている)、燃料タンク容量100ℓ、最小回転半径6.5m、生産台数150台(197台という説あり)で新車時価格2580万円(1995年)。メーカー公表性能値は0→100km/h加速4.0秒、0→1km加速21秒33、最高速度333km/hとなっている。「ディアブロSE30」のキャビンは標準的な体格の人なら、腕と足が理想的なポジションを取る事が出来ヘッドクリアランスにも余裕があり、快適なスペースといえるかもしれない。問題を感じるとすれば大きく感じられるボディサイズで斜め後方以外、視界は開けているにもかかわらず、長いテールには特に注意と慣れを要する。スターターを回せばエンジンは一発でかかり、安定したアイドリングを開始する。スムーズなクラッチを踏んでゲートの切られたギアレバーを1速となる左手前に引いて、重めのアクセルを開けながらゆっくりとエンゲージできれば唸るV12気筒の息吹きが心地良く感じられる。更に大きくスロットルを踏み込むと「ディアブロSE30」はスムーズに速度を上げていく、その加速スピードに変化が訪れるのはレブ・カウンターの針が4000rpmを過ぎた頃からだ。センセーショナルともいえるくらいに、驚くべき加速が味わえる。目の前の道路がクリアになっている事を確認し更に踏み込むと5.7ℓもの排気量をもつエンジンとは思えない程、跳ね上がるという感じでレブ・カウンターの針はレッドゾーンに吸い込まれる。地平線の果てまで飛んで行くようにスピード・メーターの針は上り詰め、背中は強くシートに押し付けられる。ターボチャージャーを装備したハイパワーカーは確かにパワフルな加速を味わえるが「ディアブロSE30」の様なノーマルアスピレーションのビックユニットに比べると、唐突に湧き上がるパワーがコントロールしにくく、ドライビングプレジャーに欠けるとも言える。また、エンジン回転を上げるに従い変化していくサウンドにも開きがある。「ディアブロSE30」のエンジンは積極的にギア・チェンジを繰り返しながら何度でもそのサウンドを引き出し、聴きたくなるエンジンサウンドを持っている。ランボルギーニ社は常に「世界最速のクルマ」にこだわってきたメーカーで、その為に数々の新しい技術を自社のクルマに採用し注目されてきた。ミッドシップで横置きエンジンの「ミウラ」をはじめ、縦置きエンジンで前方にミッションを配置しホイールベース内にパワートレインをおさめた「カウンタック」も、ランボルギーニならではと言えるだろう。そのメカニズムを受け継ぐ「ディアブロ」は創業者フェルッチオの精神を継承した最後のランボルギーニといえるかもしれない…