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280SL
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メーカー
ミッション
オートマ
グレード
280SL
ボディタイプ
外装色
アイボリー
年式
1971 年型
走行距離
57000km
乗車定員
2 名
サイズ
長 428 cm 幅 176 cm 高 130 cm
エンジン形式
排気量
2778 cc
馬力
170
トルク
24.5
車検
令和7年9月
ハンドル
駆動区分
輸入区分
ディーラー
内装色
ブラック
燃料区分
幌色

メルセデスベンツの「SL」とは「Sport(スポーツ)」と「Leicht(軽量)」のイニシアルで「軽量なスポーツカー」を意味するが、社内では「Super Leicht(超軽量)」ともよばれていた。レーシングカーの血統をもって開発された「W198300SL」は、特徴的なガルウィング・ドアをもつクーペが1295kg、ロードスターが1235kgであった。レーシングモデルとして登場した「W194SL」は870kgの車重で成り立ち、同じチューブラースペースフレーム構造ボディに3・直6エンジンを搭載し、4.5m×1.8mサイズのボディを考慮すれば、確かに軽量に造られたモデルといえるだろう。6820ドルという高額にもかかわらず予想を上回る1400台が販売され、そのイメージを量産モデルに落とし込んだ「W121190SL」も登場し、4000ドル以下というリーズナブルともいえる価格設定により1963年の生産終了までに約25千台の販売を記録した。メルセデスベンツではラインナップの中で「SL」をスポーツモデルの頂点として確立し、「ポルシェ911」の発表、「アルピーヌA110」「アストンマーティンDB5」「ホンダS500」の販売が開始がされた1963年春のジュネーブショーで「W113230SL」を発表した。新型「SL」発表にともない取材の為、会場に詰めかけたモータージャーナリスト達からは一様に失望の声が上がる。それは、インパクトの強かった「W198300SL/SLロードスター」の後継車を誰もが期待していた事によるもので、メルセデスベンツは、お披露目した「230SL」を「300SL190SL、両車の魅力を兼ね備えたモデル」という説明に終始した。その裏には1955年の「ル・マンの大惨事」といわれた「300SLR」の事故により、ワークス・レーシング活動を中止するとともに安全対策を重視する方向へシフトしたメルセデスベンツの思惑も感じられた。明らかなスーパースポーツ系の「W198300SL/SLロードスター」より、どちらかというとはるかに多くの台数を販売した「W121190SL」の開拓した、新たな顧客層に向けたモデルとして発表された「230SL」は、高性能サルーンの「W110220」のシャーシ及びコンポーネントをベースに開発されたモデルとなっている。サルーンより大幅に短くされたホイールベースとその上に構築されるセミモノコック構造のボディは、オープン化に伴い入念に補強されている。「SL」の車名に相応しくドア、ボンネット、トランクリッドはアルミ製とされ、軽量化に配慮された高剛性ボディとなる。当時のメルセデス・サルーンの特徴である縦目のヘッドライトと「W198300SL/SLロードスター」のフロントグリル・デザインを継承し、無骨で硬質な印象では無く、比較的繊細でエレガントな造形となっている。ハードトップやボディと共色のホイールキャップを採用するなど、ビジュアル的な配慮も施されたメルセデスらしく無いとも表現出来るエクステリアデザインをもつ。ボディデザインは1957年メルセデスベンツのデザイン部門のチーフデザイナーに抜擢されたフランス人デザイナーのポール・ブラックによるもの。ポール・ブラックはその後BMWに移籍し、最も美しいクーペ といわれた「E246シリーズ(635csiに代表される)」を手がけた人物で、後にプジョーに移籍し、インテリアデザインを担当している。「W113230SL」は、中央が凹んだ独特なデザインのハードトップとなる「パゴダルーフ」を備える事も特徴で、その語源はミャンマーの仏塔(ストゥーパ)を指す「パゴダ」から来ている。アジア全域で見られる建築用語で「大きな庇の両端に行くに従い反り返った形状の屋根」を表す言葉となっている。「パゴダルーフ」は衝撃吸収ボディ構造の開発をしていたベラ・バレニーにより生み出されたものといわれている。左右のサイドウィンドウのエリア拡大とルーフの強度を上げられる形状となっている。バレニーはメルセデスベンツ在籍中に2500件にものぼる特許を取得し、メルセデスベンツの安全に対する屋台骨を構築しながら、衝突安全対策に大きく寄与した人物となり「W113230SL」は衝突安全ボディを最初に導入したスポーツモデルでもあった。「W113230SL」の開発にはレーシングモデルの「300SLR」や「300SL」を手がけたグランプリカーのエンジニアである技術開発重役のルドルフ・ウーレンハウトが関わっている。ウーレンハウトは、ミシュランが先陣をきっていたラジアルタイヤ「ミシュランX」が、200km/h付近で欠点を見せる事からコンチネンタルタイヤとファイアストーンに対し高性能タイヤ開発を依頼する。結果的に要件を満たすタイヤが開発されたことで「W113230SL」は、メルセデス市販モデルとして初めてラジアルタイヤが標準装備されたモデルとなった。「W113230SL」は高性能ラジアルタイヤと、フェンダーアーチいっぱいまで張り出した広いトレッドにより、高水準なシャーシ性能に仕上がり、1963年〜65年のインターナショナル・ラリーチャンピオンシップで活躍し数多くの成績を残すとともに、その侮れないハイパフォーマンスを実証することになった。1967年に7つのメインベアリングをもつ新設計エンジンを搭載する「250SL」に進化し、燃料タンクの拡大、4輪ディスクブレーキ化が施される。約200ccのエンジン拡大による数値上の性能アップではなく、低速トルクのアドバンテージを活かした市街地走行での軽快さに振られ、それは主に北米市場からのリクエストによるものとなっている。「250SL」は、1年たらずで「280SL」に進化し「W113SL」の後期を受け持ちシリーズ中最も販売台数を伸ばす事となる。今回入荷した「W113280SL」が、搭載するエンジンは、M130型と呼ばれる水冷直列6気筒SOHCとなり、ボア×ストローク86.5mm×78.8mmを持ち、2778ccの排気量をもつ。9.5の圧縮比から170馬力/5750rpm24.5kgm/4250rpmのトルクを発揮するこのエンジンは、ボッシュ製機械式燃料噴射装置を備え、生産モデルとして初めて燃料噴射装置を装備した「W198300SL/ロードスター」の流れを汲み6気筒ならではの滑らかな回転感をもつエンジンとなる。比較的高い回転数で最大トルクを発揮するエンジンにも関わらず、低回転域でのトルクも豊かで、青信号でスロットル・ペダルを全開にすれば、ATモデルでも一瞬ホイールスピンを起こすほどのパワーを発揮する。「W113230SL」登場時には4MT5MTの設定であったが「250SL」に進化した際、4ATも選択可能となった。多くの欧州メーカーがZFやボルグワーナーなど、専門メーカーのATに頼っていたのに対し、メルセデスベンツは、あくまでも自社製にこだわっていた。当時としては、4ATであることだけでも珍しい上に、トルコンの代わりに構造的に単純となるフルードカップリングを採用し、可能な限りシフトチェンジ時のスリップを抑える仕組みが採用され、シフトショックは出るがダイレクトな加速感は、マニュアルトランスミッションに劣らない。しかも最近のシングルクラッチ式2ペダルM/Tの様に、変速時に僅かにスロットルペダルを緩める事により、シフトショックを軽減することも出来る。また、現在のメルセデスベンツ各車につながる、クランク状のシフトゲートをもつ、ロック機構の備わらないATセレクターレバーは、多くのクルマとは逆となる、手前から前方に向かってPRN432と配置されている為、慎重な扱いが求められるものとなる。「W113SL」はシリーズを通して77%4ATモデルといわれ「280SL」では4.08まで低められたファイナルと組み合わされる事で「SL」の名に相応しいレスポンスと軽快な加速性能をセールスポイントとしている。足回りは、前ダブルウィッシュボーン式+コイル、後スウィングアクスル(コンペンセーター・スプリング付きローピボット・シングルジョイント)+コイルによる4輪独立懸架となる。ブレーキは4輪ディスクブレーキを備える。近代的な足回りと「190SL」に比べ、更に後継車となるR107型「SL」と比べても、広いトレッドをもつ「280SL」は、当時としては太目となる185HR14サイズのタイヤを装備することでスポーティに走らせる事が可能となっている。インテリアは、クロームメッキを随所にあしらった、クラシカルなデザインのインパネを装備し50年代テイストとなる。メーターリングをはじめとし、空調まわり、ホーンリング、シフトまわり、のクローム装飾はボディカラーを用いたインパネにとても良いアクセントを与えている。ダッシュボード前方や、センターコンソールにあしらわれたウッド素材は機能的なインテリアに潤いをプラスしている。パワーアシストの付いた、握りの細目な大径ステアリングの奥には、VDO製の6500rpmからレットゾーンとなる7000rpmまで刻まれたレブカウンターを左側に、220km/h迄のスピードメーターが右側に配置される。その間に、燃料、油圧、水温の3種のメーターとインジケーターがレイアウトされている。ロック機構を持たないATのセレクターレバーは、MTの様にシンプルな丸型の手に馴染む大きさのノブが付く。スカットルやショルダーラインが低く、大きめなウィンドスクリーンと細いピラーにより、ハードトップ装着時でもガラスエリアの大きくとられたパゴダルーフの為、室内は明るく保たれ、全方向の視界はすこぶる良好なもの感じられるものとなる。全長×全幅×全高は4285mm×1760mm×1305mm、ホイールベースは2400mm、トレッド前1486mm、後1487mm、車両重量1400kg、燃料タンク容量82で、最小回転半径は5.0mとなっている。「W113280SL」は、196711月〜19713月迄の間に23885台が生産され、シリーズの中で最も多く生産されたモデルとなるが、今回入荷した車両は、たいへん貴重な最終モデルのディーラー車となっている。公表性能値は最高速度195km/hとなり、初期型の「230SL」の最高速度200km/h(0100km/h加速は11)に比べあまり変わらないのは、低められたファイナルギアによるものとなる。「W113SL」は、最も美しいメルセデスベンツの1台といわれ続けたモデルとなっている。また、今となっては街中での取り回しのしやすい、サイズ感も価値あるものと言えるだろう。ATセレクターの4のポジションをセレクトしてスタートすると、2速発進となるが、低められたファイナルギアと「W113SL」としては最も大きい排気量となる為、加速感はパワフルさを感じられるものとなる。減速時にもシフトダウンをするATは、ダイレクトに感じられMTのような痛快なドライビングが味わえる。路面の荒れた道では、乗員にゴツゴツ感は伝わるがオープンボディにもかかわらず、さすがメルセデスと言いたくなるボディ剛性により不快な振動はシャットアウトされている。タウンスピードでは硬めのサスペンションはスピードの上昇とともに、しなやかさを増しはじめ本来存在すべき速度帯を教えてくれる。また4輪ディスクとされたブレーキは、高速域での制動性能に不安は無く、安心して踏み込む事が出来るのもメルセデスらしいところとなる。やはり、この時代にあってもメルセデスベンツ製である以上、アウトバーンで鍛えられた動力性能は、求める世界が決定的に異なることを再確認させてくれる。普遍性の高い良い時代のしなやかなエクステリアデザインを持ちながら、しっかりとメルセデスベンツのクオリティの高さは随所に垣間見えるモデルとなる。「W113SL」の後継となる「R107SL」からはエミッションコントロールなどの影響によりV8エンジン搭載となり、スポーツモデルというよりGT色の強い味付けにシフトしていく。それに比べると「W113SL」は、あの初代「W198300SL/ロードスター」の面影を何処かに漂わせつつその流れを汲む血統を感じさせる「Sport Leicht」を名乗れる1台となっている。