サイズ
長 429.0 cm 幅 200.0 cm 高 107.0 cm
「カウンタック・アニバーサリー」のデビューは1988年9月8日、新たにランボルギーニ社の経営権を手に入れたクライスラー社社長リー・アイアコッカ、並びにランボルギーニ創業者フェルッチオ・ランボルギーニ参列のもと挙行された「ランボルギーニ社創立25周年記念式典」のイタリアはパルマに近い会場であった。ショー・デビューは同じ月のパリ・サロンとなる。パワートレインは、それまで製造されていた「5000クワトロバルボーレ」を踏襲しながら、リニューアルされたエクステリア、及びインテリアを持つ。フロントエアダム、サイドスカート、前後バンパー、アグレッシブなボディショルダー部のエアスクープなどが専用デザインをもつ「カウンタック」の最終進化モデルとなる。「カウンタック」のデザインはカロッツェリア・ベルトーネに在籍したマルチェロ・ガンディーニによるものとなるが「カウンタック・アニバーサリー」の専用エクステリアのデザインは、オラチオ・パガーニによるもの。1955年アルゼンチンに生まれたパガーニは、カーデザイナーを目指し大学でデザインとエンジニアリングを学んだ。その後、5回のF1チャンピオンの経歴をもつ、同郷のファン・マヌエル・ファンジオをたより1982年ランボルギーニ社に入る。「LM002」「カウンタック・アニバーサリー」開発に携り、複合素材の知識に明るくカーボンファイバー素材の市販車への導入を図り、チューブラーフレームでは無くカーボンフレームをもつ「カウンタック・エボルツィオーネ」を製作するまでになった。その技術は「カウンタック・アニバーサリー」にも活かされ、ボディシェルの一部に複合素材が使用される初の市販車とされた。1992年オラチオ・パガーニは独立し1999年には「パガーニ・ゾンタ」を発表する。「カウンタック」登場時の「LP400」の設計はパオロ・スタンツァーニによるもので、1968年「ミウラ」のグレードが「S」から「SV」に進化するタイミングで始まっていた。シャーシ開発のジャンパオロ・ダラーラの「試作車を販売してしまった」という発言どおり「ミウラ」での熟成度と信頼性を確立出来なかったという反省から「カウンタック」の開発に時間をかけたかったのだろう。プロトタイプとなる「LP500」は鋼板モノコック構造となっていたが、強度と重さの関係から、市販車となる「LP400」では作り慣れたチューブラーフレーム構造に変更された。そのフレームはマルケジーニ社に、外皮となるアルミパネルはトリノのITCA社に発注された。出来上がったチューブラーフレームは、直径40mmの円断面鋼管によるトラス構造を基本に、ため息が出る程複雑精緻に組み上げたもので、工芸品ともよべる贅沢でオーバークオリティなものとなっている。それにも増して鮮やかなのは、パワートレインレイアウト。「ミウラ」のV12エンジン横置きレイアウトは、リアヘビーとスペースの関係からサスペンションアーム設計の自由度に欠けた事により「カウンタック」では縦置きとされた。しかも、通常の縦置きとは前後逆に配置し、ボディ前方に向かってクラッチ、トランスミッションと並べてある。前方にアウトプットされた出力は、エンジン直下のウェットサンプのオイルパンの中をドライブシャフトが貫通し、リアデフに伝達されるという斬新なレイアウトとなる。スタンツァーニはこの設計でV12エンジン縦置きと、短いホイールベース内にパワートレインを納めるという事を両立してみせた。「カウンタック・アニバーサリー」にもこのチューブラーフレームとパワートレインレイアウトが継承されている。エンジンは「フェラーリ250GTO」の開発で名を馳せたジオット・ビッザリーニ設計によるものを基本としたもの。V12エンジンとしては極めてコンパクトな外寸をもち、ひたすらパワー志向で仕立てられ、原初設計3.5ℓで「ミウラ」搭載時に、ビッザリーニの後を引き継いだジャンパオロ・ダラーラにより4ℓ化され「カウンタックLP400」にも搭載された。4ℓ化された時点で基本設計からの伸びしろを使い果たしたこのエンジンを、マセラティからランボルギーニの技術チーフに就任したジュリオ・アルフィエーリが救う事になる。ジュリオ・アルフィエーリは1961年にフェラーリからジャンパオロ・ダラーラを引き抜きマセラティで育てた人物。ダラーラは、その後ランボルギーニに移籍し「ミウラ」で脚光を浴びるが、アルフィエーリはその裏で「マセラティ・ボーラ」を地道に開発していた。そのアルフィエーリが、ランボルギーニの伸び代を使い果たしたエンジンのブロックとシリンダーヘッドの間にアルミスペーサーを挿入し、ストローク延長の余裕を与えた。これにより「カウンタック・アニバーサリー」に搭載される5.2ℓまで拡大されるのに留まらず、次期モデル「ディアブロ」にも5.7ℓ化されて搭載されることとなった。「カウンタック・アニバーサリー」に搭載されるエンジンは60°V12気筒DOHC48バルブとなり、ボア・ストローク85.5mm×75mmで、圧縮比9.5の5167ccの排気量をもつ。ツインチョークのダウンドラフト・ウェーバー44DCNFを6基備え、455馬力/7000rpmと51.0kgm/5200rpmの最高出力とトルクを発揮する。またキャタライザーを備えたインジェクションモデルも存在し、そちらは426馬力/47kgmとなっている。これらのエンジンと組み合わされるトランスミッションは5速マニュアルトランスミッションとなる。足回りは前後ダブルウィッシュボーン式となるが、リンク部にゴムブッシュを使わないピロボール式となる。前に1本、後に2本ずつのコニ製ショックアブソーバーを備える。ブレーキは前後ともベンチレーテッドディスクとなり、前300mm径、後284mm径で、ATE製キャリパーと組み合わされる。「カウンタック・アニバーサリー」専用デザインとなるOZ製ホイールは、ステンレス製リムをもつ3ピースホイールで、前225/50ZR15、後345/35ZR15となりピレリPゼロタイヤが組まれる。15インチタイヤが「カウンタック」の車齢を感じさせる部分となる。前衛的なエクステリアに比べると、比較的オーソドックスなインテリアが装備される。角張ったメータークラスターには、大径のスピードメーターとタコメーターを含む7つのメーターが備わる。スピードメーターは320km/hまであり、7000rpmからイエロー、7500rpmからレッドゾーンとなる9000rpmまでのタコメーターと、小径の水温、電圧、油圧、燃料、油温の各メーターとなる。各部スイッチ類、レバー類は普通の車と変わらず、奇をてらった感じは無い。ガラス面積が大きくとられた室内は温度が上昇しやすいが、日本製となるサンデンの強力なエアコンを装備し、僅かに開くサイドウィンドウはパワーウィンドウとなっている。ステアリングはチルト機構が付き、セミバケットシートはスライド、リクライン、上下と電動で調整出来る。これらのコンフォート性は大幅にアップデートされ、親会社となるクライスラー社の販売意向が垣間見える。ただし、広くない足元に配された小さめなペダル類は踏力を必要とするものとなる。全長×全幅×全高は4200mm×2000mm×1070mm、ホイールベースは2500mm、トレッド前1535mm、後1605mm、車両重量1680kg(前後重量配分は41:59)。燃料タンク容量は左右60ℓずつで計120ℓ。「カウンタック」全モデルの合計生産台数は約2200台となり、750台の「ミウラ」を大きく上回る。その中で「カウンタック・アニバーサリー」は発表時400台限定とアナウンスされたが、657台となりカウンタックシリーズ中、最多となる。メーカー公表性能値は0→100km/h加速5.0秒、0→1km加速23.5秒、最高速度295km/h。カーグラフィック誌による実測データは0→100km/h加速5.1秒、0→400m加速13.1秒、0→1km加速23.4秒、最高速度266km/hとなり、当時ライバルと目された「テスタロッサ」の0→400m加速13.8秒、0→1km加速24.8秒を上回る速さを記録している。スーパーカーの金字塔ともいえる「カウンタック」、その最終モデル「アニバーサリー」は間近で見ると、より低く迫力あふれるものに感じられる。ボディサイドのNACAダクト上側に付けられたプッシュボタンを軽く押すだけで、油圧ダンパーにより上方に開くドアは垂直に持ち上がる為、その方向の遮蔽物に気を配らなければならない。サイドから見てペダル類を踏み切った時のつま先の位置は、前輪中心より更に前方にある。通常の横開きドアでは、乗降時の足の出し入れが辛くなる故の機能に基く開閉方式となるが、クルマに興味の無い人にも「カウンタック」の代名詞とよべる装備となる。シートに腰を下ろしステアリングに手を添えると、目線は低く、ヘッドクリアランスは小さいが、ポジションはそれ程、悪くない。エンジン回転数を上げずに重いクラッチをリリースするだけで動きはじめ、左右の広い車幅を気にしながら踏み込むアクセルもまた、踏力を必要とする。力強く吹け上がるエンジンは3000rpmを超える所から、それまでのバラついた排気音から少し音色が変化し音のツブが揃いだし、まとまりながらフェラーリとは明らかに異なる音色でドライバーを刺激する。その高まる音とともに、ボディはどんどん軽く感じられる様な感覚に囚われる。ランチア・ストラトスで名を馳せたサンドロ・ムナーリが開発テストのスタッフに加わりセッティングを行なったサスペンションを持つ「カウンタック・アニバーサリー」はステアリングを切り始めた所からキレイにコーナリングラインをトレース出来る。またブレーキも、それ迄のモデルとは比較にならない程のコントロール性を見せる。アップデートされた部分は多岐にわたりウォーターポンプの大型化や、高効率ラジエーターなど冷却系にまで及ぶ。60年代終わりにチーフエンジニアのパオロ・スタンツァーニが設計し、ジオット・ビッザリーニ設計のエンジンをジャンパオロ・ダラーラが4ℓ化、マルチェロ・ガンディーニがそれ迄誰も見た事の無いボディデザインを描く。更に「ミウラ」の反省を踏まえテストにテストを繰り返すテスト・ドライバーのボブ・ウォーレス。バレンティーノ・バルボーニは68年にランボルギーニ社に入ったばかりだったので、彼らのやりとりを目の当たりにしていたのだろうか。かかわったスタッフは皆んな30歳前後で、よくぞこれだけ集まった。その後の彼らの功績を考えれば、まさにドリームチームといえるだろう。長い自動車の歴史から見れば、ほんの一瞬、皆んなが集まり夢を形にするテンションの高い時間を共有する中で出来上がった「カウンタック」。まさに車名となるイタリア・ピエモンテ地方の方言で「感嘆」を表す「Countach」そのものと言える。自動車史上、このインパクトを超える存在のクルマが他にあるだろうか…