ポルシェ911Turbo3.3
ポルシェのロードモデル用、ターボエンジンの開発は、1960年代に2ℓ空冷フラット6エンジンを使い、ボッシュやターボチャージャーを製造するKKK (キューネ・コップ&カウス社=現在はボルグワーナー・ターボシステム社に吸収合併されガソリンエンジン用ターボシェアは世界一となる)の協力により始められ、1969年には「911」と「914」にそのエンジンを搭載し販売する計画もたてられていた。しかしポルシェは時期尚早として踏み止まり、1973年9月のフランクフルトショーに展示されたシルバーのボディに白い「Turbo」の文字のストライプを纏った、280馬力/最高速度280km/hを標榜するプロトタイプにより現実のものとなる。このショーではサーキットで鎬を削るバイエルンのライバル、BMWがひと足先にシャモニーホワイトのボディをもつ「2002ターボ」の市販モデルをデビューさせていた。ポルシェが市販を目指した”ターボエンジン“を、BMWは自社開発による航空機用エンジンやレーシングモデル「2002tik」のノウハウを使い、逆文字で「TURBO」の文字が誇らしげに描かれたフロントスポイラーを装備するロードモデル「2002ターボ」を開発し完成させていた。ポルシェは、翌年8月になるとフェルディナント・ポルシェの長女でアマチュア・レーシングドライバーでもありカーマニアだった、ルイーゼ・ピエヒの70歳の誕生日を祝い、開発された「ポルシェ911ターボNo.1」をお披露目する。このモデルには「カレラ」ボディが採用され、240馬力を発生する2.7ℓ・フラット6にターボチャージャーを装備するエンジンが搭載されていた。しかし、2.7ℓエンジンでは低速域でのトルクが薄く扱い易さに欠ける事がわかり、市販に向けて排気量の拡大望まれた。この「911ターボNo.1」では、強力なターボエンジンと毛足の長い豪華な赤いカーペット、タータンチェック柄に代表されるプレミアムな装備の組み合わせが既に確立され、今に続く速さと豪華さを併せ持つ「911ターボ」のキャラクターが表現されている。1年以上の開発期間を経て「カレラRS3.0」に搭載される2994cc空冷フラット6エンジンをベースに、KKK製のターボチャージャーを装備した930/50型エンジンと、対応トルクに余裕のある新開発の4速マニュアルギアボックス930/30型が完成する。このハイスペックなパワートレインが搭載されるボディにはコンペティションモデルの「カレラRSR3.0」のサスペンションを始めとするモータースポーツで培った技術が導入され、拡大されたトレッドとワイドタイヤを装着する為に大きくフレアした前後フェンダーを装備し「911」ならではのグリーンハウスは維持されながらも、そのエクステリアデザインはひと目で異なる迫力を感じさせるものとなった。またこのモデルの特徴となる巨大なリアウィングは「ナナサンのRS」のダックテール・スポイラーと同様にヘルマン・ブルストによりデザインされたもので、フロントスポイラーと併せて空力を味方にした専用デザインが与えられている。こうして「911ターボ」と命名されたプロダクションモデルは、ボディを「ヴァイパーグリーンダイヤモンド」に塗装されたモデルが、ビックバンパーを装備しデザインを一新した「911」と一緒に、1974年10月のパリサロンで発表される。社内コード「930」型とよばれていたこのモデルは、最高速度250km/hと0→100km/h加速5.5秒という圧倒的なパフォーマンスと、豪華なインテリアとパワーウィンドウやエアーコンディショナーなどの充実した装備を併せもつトップモデルとして、1975年から販売が開始される。FIAの新たなレギュレーションによる”グループ4“のホモロゲーション取得の為、年間500台の生産を目標としていたが、発表とともにその倍のオーダーを獲得し、3年間で2850台が生産される人気モデルとなった。発売当初の「911ターボ」に搭載されたエンジンは、930/50型とよばれる空冷水平対向6気筒SOHC12バルブで、ボア×ストローク95mm×70.4mmから2994ccの排気量を得ていた。ベースは「カレラRS3.0」のものとなるがクランクケースの材質は軽量なマグネシウム製から、ハイパワーに耐えるアルミ製に変更され、鋳鉄ライナーを廃して内部にニカシルメッキを施した「RS」用アルミスリーブが採用されている。ヘッドは「RS」よりバルブ挟み角を狭くした新設計とし、高熱に強いナトリウム封入エキゾーストバルブを備えていた。ピストンは「RSR」にも使われるアルミ鍛造製とされ、ターボ化による燃焼温度上昇に備えピストン裏を冷却するオイルジェットが追加されている。鍛造スチール製のコンロッドと充分な強度を備えたクランクシャフトは通常仕様のままとされた。ターボチャージャーはKKK製タイプ3LDZタービンを採用、最大過給圧0.8バールとされ、圧縮比は6.5、ボッシュKジェトロニック燃料噴射装置を装備し、最高出力260馬力/5500rpmと最大トルク35kgm/4000rpmを発揮する。高出力化に伴い発熱量が増えたエンジンに対応して、冷却ファンの回転数はクランクシャフトの1.3倍速から1.67倍に引き上げられている。ターボユニットを加えてもコンパクトな仕上りを見せるエンジンは、自然吸気2.7ℓのフラット6より30kg程重い206kgに収められ、同排気量のフラット6自然吸気エンジンに比べ約1.3倍となるパワーの増加に対応し容量を増やされたクラッチは大径化が図られている。組み合わされるトランスミッションは新開発の強化型でハイギアードな4速MTの930/30型となる。このギアボックスは“シルエット・フォーミュラー”とよばれる”グループ5“用のレーシングモデル「935」の600馬力のエンジンを想定して設計されアルミ製のケーシングをもつ。ディファレンシャルギアに30%のロッキングファクターが与えられたパワートレインに、エアコンはじめ豪華なトリムを施したインテリアを含めても車両重量は1200kgに抑えることで「ポルシェ911ターボ」は当時のライバル車を圧倒するパフォーマンスを発揮した。ブレーキはそのパワーに対応した「917」由来のドリルド・ベンチレーテッドディスクが4輪に装備され、フロントブレーキには、フィン付きアルミキャリパーが組み合わされていた。大きく拡幅され「ターボ」モデルを象徴する前後のフェンダーに収まる装着タイヤは、当初フロント185/70VR15、リア215/60VR15のダンロップ製という自然吸気の「911」と同じ設定だった。しかし、1976年型からは前後それぞれ205/50VR15と225/50VR15サイズに格上げされるとともに、ピレリと共同開発された革新的なスポーツタイヤ“P7”がロードモデルとして初めて標準装備された。同時にエクステリアでは、ドアミラーが大型化され電動調整機構が採用されている。またリアウィング形状を維持したまま、エンジンリッドの裏側に装備されるエアコン用コンデンサーの冷却効率アップの為に、後方のグリルは拡大されている。「911ターボ」には設定された0.8バールの最大過給圧を最大限に引き出し”ターボラグ“を軽減する為にターボシステムの排気タービン側には「917」の開発責任者であったヴァレンティン・シェーファーによる”ウェストゲート“が装備されている。しかし過給圧がかかった状態でスロットルを閉じると圧縮エアがコンプレッサー側に逆流しレスポンスの低下を招くことが確認され、1976年型からは吸気タービン側にブローオフバルブが採用されたことにより、劇的に扱いやすいターボエンジンへと進化している。更に翌年1977年型ではタイヤ幅はそのままにホイールが16インチ化されるとともに、ブレーキにサーボが採用され強力なストッピングパワーをアシストしている。そして1977年、秋のフランクフルトショーで発表されたモデルが、排気量を新たに3.3ℓとした「ポルシェ911ターボ3.3」となる。エクステリアのデザインはほぼキープされているが、リアのエンジンフードとそこに備わる「ターボ」モデルならではのリアウィング形状が改められている。今回入荷した1980年型「ポルシェ911ターボ3.3」では、前年モデルまで装備されていた大型のヘッドランプウォッシャーは小型化されスッキリとしたフロントバンパーには、ステーを介してボッシュ製フォグランプが装備されている。搭載されるエンジンは、空冷水平対向6気筒12バルブで、ボア×ストローク97mm×74.4mmから3299ccの排気量をもつ930/68型となる。これは従来の930/50型エンジンから、ボアが2mm、ストロークが4mm拡大されて305ccの排気量アップが施されたエンジンとなる。これに伴いチャージアフタークーラー(これが正式な名称で通称はインタークーラー)が新たにリアウィング内に装備されている。このチャージアフタークーラーとは、ターボで過給される圧縮空気を高温のままエンジンに送るのではなくここで冷却することで、酸素濃度を高め燃焼効率の向上と異常燃焼を防ぎ、ターボ効果を最大限に引き上げる役割を担っている。「ターボ」モデルの特徴的な”ホエールテール“と呼ばれる2分割グリルを持ったリアウィングは、このチャージアフタークーラーをエンジン冷却ファンの左上に収める為、よりフラットなデザインの”ティートレータイプ“に変更され、ウィング部分には折り返しのある形状が採用されている。排気量拡大に伴いクラッチディスクのハブ部分に、ゴムの弾性を使い振動を抑える構造が導入された事により、3ℓエンジン搭載モデルに比べエンジン搭載位置は30mm後退し、後輪荷重が30kg増えたことによりリアタイヤの空気圧の設定が高められている。アルミ製クランクケースはじめ、内部にニカシルメッキを施した「RS」用アルミスリーブやアルミ鍛造製ピストン、ピストン裏を冷却するオイルジェット、鍛造スチール製のコンロッドと充分な強度を備えたクランクシャフト、KKK製ターボチャージャーも3ℓモデルから継承されている。ターボチャージャーの最大過給圧は0.8バールとされ、圧縮比は7.0にアップ、ボッシュKジェトロニック燃料噴射装置を装備し、今回入荷したモデルでは最高出力300馬力/5500rpmと最大トルク42kgm/4000rpmを発揮している。これは3ℓエンジン搭載モデルに比べ、実に40馬力と7kgmのパフォーマンス・アップが図られた事になる。1980年型からマフラーは左側出しのデュアルタイプとなった事で排気音量が僅かに下がり、オイルクーラーはフィン付きのチューブタイプに変更を受けている。足回りは、フロントにマクファーソン・ストラット式、リアはセミトレーリングアーム式が採用され、前後それぞれにグリーンのビルシュタイン製専用ダンパーとトーションバースプリング(フロント18.8mm径、リア26.0mm径)、スタビライザー(フロント20.0mm径、リア18.0mm径)が装備される。このサスペンション型式はベースモデルの「911」と共通となるが、コンペティションモデル「カレラRSR」のノウハウが用いられ、キャストアロイ製トレーリングアームや強化型ホイールベアリングの採用により、強力なエンジンパワーに対応し大幅に強化されている。ブレーキは前後ともにドリルド・ベンチレーテッドディスクを装備、フロントに304mm径×32mm、リアには309mm径×28mmサイズとされ、前後ともにブレンボ製アルミ4ポッド(ピストン径はフロント38mm、リア30mm)キャリパーが組み合わされている。このブレーキ・システムはコンペティションモデルの「934」にもそのまま採用される程、強力なストッピングパワーを発揮するものとなる。ホイールは純正の16インチのFuchs製アルミ鍛造ホイールが採用され、フロント7J、リアは8Jを装備する。組み合わされるタイヤは、フロントに205/55VR16サイズ、リアには225/50VR16サイズが装備されている。インテリアは、見慣れたこの時代の「911」のレイアウトが踏襲されたデザインが採用されている。3スポークタイプのステアリングを通して見えるダッシュボードの中央には、6700rpmからレッドゾーンとなる大径のタコメーターが置かれ、そのメーター内の下部には最大1バール迄のターボブースト計が内蔵されている。その右側にはひとまわり小径の300km/h迄刻まれた「ターボ」モデルならではのスピードメーターがレイアウトされNAモデルとの性能差を主張する。メータークラスターに並ぶ5連メーターのレイアウトは「911」誕生以来の眺めとなりメーター類は全てVDO製が採用されている。ダッシュボード中央部には1977年型から追加された空調のエア吹き出し口が装備されている。「911」伝統のオルガン式のペダルをもち、4速となるMTのシフトブーツは蛇腹式のラバー製となる。シート形状は見慣れたハイバックタイプのデザインとなるが、サイドサポートが大きく膨らんだスポーツシートが装備されている。このシートは厚手の高級レザーで覆われ「911」のトップモデルらしい風格をもつ。人を乗せるには少々スペースが限られるが、手荷物を置くのに便利な後部座席も装備される。後部座席のシートバックは左右個別に前方に倒すことでラゲッジスペースとして活用出来るもので、左側の背もたれ裏面には「turbo」の文字が入る。またレザーで覆われたダッシュボード周りや、フロアに敷かれたカーペットも防音効果の高い上級なマテリアルが採用されたものとなっている。︎全長×全幅×全高は4291mm×1775mm×1310mmとなり、ホイールベースは2280mm、トレッド前1430mm、後1450mm、車両重量1300kgとなっている。最小回転半径は5.4mで、燃料タンク容量は80ℓ、前後重量配分34.6:65.4、新車時販売価格は、「911SC」が895万円、「928」が1050万円と設定される中で「911ターボ」は1740万円(1980年)となっている。生産台数は1978〜1989年迄生産された、3.3ℓターボエンジン搭載のクーペモデルは17003台。メーカー公表性能値は0→100km/h加速5.4秒、0→1km加速24.0秒、最高速度260km/hとなる(300馬力エンジン搭載のヨーロッパ仕様)。カーグラフィック誌による実測テストでは265馬力の日本仕様3.3ℓターボエンジン搭載モデルで、0→400m加速13.86秒、0→1km加速25.32秒、最高速度242.26秒を記録している。︎「911ターボ」によりFIAの「グループ4」のホモロゲーションを取得したポルシェは、世界メイクス選手権(WCM)にエントリーする為に、ロードモデルをベースに、グループ4モデル「934」を開発する。 3ℓ・空冷フラット6にターボチャージャーを装備し、水冷式インタークーラーと1.4バールの過給圧により最高出力485馬力と60kgmのトルクを発揮する930/75型エンジンを搭載。幅広のホイール/タイヤを収める為に規制枠一杯までのオーバーフェンダーとフロントエアダム、ターボウィングを装備、ターボ係数1.4により排気量4ℓ以上のクラスにカテゴライズされる為、最低重量は1025kgという規定の中で仕上げられプライベーターのレーシングチーム向けに市販もされ多くの戦績を残した。この「934」をベースとするグループ5モデルの「935」は、ポルシェのチーフ・エンジニアのノルベルト・ジンガーによりエンジン、サスペンションそしてボディに大幅に手が加えられ開発された。トーションバー式のスプリングはコイル式とされ、ブレーキは「917」から流用されたドリルドベンチレーテッド・ディスクを採用、エンジンはターボ係数を掛けても排気量4ℓ以下のクラスを目標として2994ccから2855ccに抑えられ、最低重量970kgを目指した。レギュレーションによりクランクケースやクランクシャフトは市販モデル用から継承され、ボッシュ製機械式燃料噴射装置とKKK製ターボに1.4バールのブーストをかけ590馬力を発生する930/72型エンジンを搭載する。「935」は、1976年のデビューシーズンをマルティニ&ロッシ・カラーに彩られた2台のワークスカーをエントリーし、ジャッキー・イクスとヨッヘン・マスのドライブにより、シーズン序盤のムジェッロとバレルンガの6時間レースで勝利し幸先の良いスタートを切る。このシーズンライバルとして立ちはだかったのは、同じ市販ターボモデルをもつバイエルンのBMWだった。シュニッツァーによりターボ化された直列6気筒3.2ℓ・M49/2型エンジンを搭載し、750馬力を発揮するBMWは、第3戦シルバーストーンではフロントロウを獲得しポルシェに抵抗してみせた。BMWはこのフランク・ステラによる方眼紙の様なグラフィックカラーを纏った、ターボエンジン搭載の「3.2CSLターボ」と、自然吸気3.5ℓ・直列6気筒DOHCエンジン搭載の「3.5CSL」によりタイトルの獲得を目指してシルバーストン、ニュルブルクリンク、エステルライヒリンクで3勝を挙げていた。「935」はWCMのタイトル戦から外れた「ル・マン」にも出場し総合4位を獲得、グループ5勢ではトップという結果を残している。激しいレース展開が続くWCMの年間メイクスチャンピオンの行方は最終戦ディジョン6時間レースにまでもつれ込んだ。予選ではポルシェ、BMWともにターボにフルブーストをかけてのアタックを開始し、0.5秒差でポールポジションを獲得したのは「3.2CSLターボ」だった。決勝レースがスタートすると「3.2CSLターボ」がリードし、イクスのドライブする「935」が追う展開となった。しかしトップのBMWは高速コーナーでディファレンシャルを壊してスピン、何とかピットまで辿り着くが結果はリタイア。「3.5CSL」が「935」を追撃するが、ポルシェはこのレースを1〜3位まで表彰台を独占する結果により、シルエットフォーミュラー元年のメイクスタイトル獲得に成功する。翌年1977年のシーズンに向けてポルシェは「935」にツイン・ターボ化したエンジンを搭載する「935-77」を開発。630馬力にパワーアップされたエンジンと改善されたアクセルレスポンスにより年間メイクスチャンピオンの連覇に成功する。前年に続いてWCMのタイトル戦から外れた「ル・マン」では序盤2位につける健闘をみせた「935-77」だったが、スタート5時間後にヘッドガスケットが抜けてリタイアに終わってしまう。「935」のあまりの強さにライバル不在の状況で迎えた1978年のシーズンでは、ワークス・ポルシェのライバルはプライベーターのポルシェという構図となってしまった。このシーズンの為に改良が施された「935/78」は、2年連続の「936」による「ル・マン」勝利に続く、更なる連覇を目標に絞り3211ccへと拡大されたエンジンを搭載、そのパワーは750馬力まで引き上げられていた。また「935/78」は、空気抵抗軽減の為に大幅に引き伸ばされた前後オーバーハングをもつことから、19世紀のハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」に登場する鯨にちなんで“モビー・ディック”の愛称でよばれていた。空気抵抗係数は前年の0.393から0.362へと向上し「ル・マン」のユーノディエールの直線では前年より30km/hアップとなる366km/hを記録している。「ル・マン」のための足慣らしとして初登場した第4戦シルバーストンのレースではイクス/マスのコンビによるドライブで、圧倒的な速さを見せつけデビューウィンを飾る。そして迎えた「ル・マン」の予選ではプロトタイプ勢に続く3位を獲得。決勝ではグループ5勢の中でトップ/総合5位を維持していたが、オイル漏れによりペースダウンし8位という結果に終わる。それでもレースペースは素晴らしく前年より1周で13秒もラップタイムを短縮する速さを記録している。その後ヴァレルンガのレースにもエントリーした「935/78」だったが、噴射ポンプのベルト切れによりリタイア。ポルシェ・ワークスチームによる”シルエット・フォーミュラー“への挑戦は、この年をもって幕を閉じる事となるが「935」の活躍は有力なプライベーターに引き継がれ1980年代初頭まで様々なレースにエントリーし、その強さを発揮することとなる。︎今回入荷した1980年型「ポルシェ911ターボ3.3」は、この時代の「ポルシェ911」と同様に現代のクルマ達の中では、とてもコンパクトに感じられるサイズ感ながら、少し離れて眺めているとインゴットの様に濃密な凝縮感と強い存在感を放つ様に見える。これはボディ各部に施されたデザインが全て意味をもち、それは「911」誕生時のプレーンなボディの時代から、時を経る毎に性能アップを遂げてきた進化の証しでもある。特に「911ターボ」のボディでは、大きくフレアした前後フェンダーや大型の前後スポイラーにそれを見ることが出来る。ターボチャージャーにより大幅にアップしたエンジン出力に対応した、必要な装備であるとともに、ホモロゲーションモデルとしてレーシングカーに進化する事まで想定して形つくられたデザインであるとも言えるだろう。独特のオーラを纏うボディに近づき、その脇に立つと改めてリアフェンダーの張り出しの大きさには驚かされる。ドアを開きシートに腰を下ろすとドライバーを囲むキャビンの雰囲気は他の「911」と同様となりドアを閉めれば金庫の中にいる様な密閉感に包まれる。フロントウィンドウごしに見えるヘッドライトへと続くフェンダーラインや、ひときわ大きなレブカウンターを中心とする5連メーターがドライバーに向けられている。その環境の中でタコメーター内のブースト計や、300km/hまで刻まれたスピードメーターは「ターボ」モデル専用のものとなり、これから始まる異なる世界への期待を膨らませるのに充分な意味をもつ。左手でキーを捻りエンジンをスタートさせると、空冷エンジンならではのクーリングファンが回転する音と、唸る様なエンジン、そしてマフラーからの低いサウンドがキャビンに響く。床から生える重めのクラッチを踏んで、ストロークが長めなギアレバーを1速送りゆっくりと走り出す。2速にアップして低速で走っていると、硬めの乗り心地から強化された足回りが想像出来る。ターボ過給が本格的に始まる前でも、低速トルクはタウンスピードには充分に感じられ不自由なく走らせる事が可能となる。4速MTの為、2速の守備範囲は広く50km/hで2000rpm、6000rpmまで回せば150km/hに届き、ほぼAT車の“Dレンジ”の様にも使うことが可能となる。ターボ過給の効果が発揮されるのは、3000rpmあたりからでアクセルを踏み込むとアッという間に別の世界にトリップする様な、異次元の加速を見せてくれる。エンジンパワーは勿論だが「911」特有の強力なトラクションにより押し出されるところが、この独特の加速感を産み出している。単にハイパワーなエンジンや、固められた足回りというそれぞれのパートがクローズアップされるのではなく、コンパクトなボディ全ての凝縮された感覚が強く腹の底に響いて蹴飛ばされる様な加速が強く印象に残る。その独特な加速感の核となるのはリアにエンジンを搭載する「911」ならではの強靭なモノコックボディによる。リア周りのエンジン隔壁あたりの極部剛性がとても高く、後方に行くに従い狭められたボディ形状、リアの低い位置にマウントされたエンジンによる低い重心高がこのトラクションを生むカギとなっている。ターボ過給が始まるとエンジンサウンドの高まりとともに高周波のタービンノイズが聞こえ、硬質なエンジンサウンドとともにパワーが2次曲線的にキックアップして、タコメーターの針は弾みをつけてレッドゾーンに一気に吸い込まれる。この圧倒的なスムーズさと加速の凄まじさは「ポルシェ911ターボ」ならではの世界となり、1.5トンを切る軽めの車両重量も効いている。この加速を活かしたワインディングでの走行では、定評のあるブレーキ性能を堪能することも出来、アウトバーンの存在しない日本でも「911ターボ」の性能は充分にドライバーを魅了する。また走らせる度にそのドライブする楽しさは奥行きを感じさせるものとなり、より車両との多くの対話を求めて尽きることはない。また現代のハイパワーモデルでは一般的となった快適装備も時代を先取りして採用していた「911ターボ」は、ロングツーリングも得意種目となっている。ポルシェによるターボ技術は「ポルシェ911ターボ」発表以降、モータースポーツシーンに於いては耐久レースやF1レース、ラリーを含めポルシェに数多くの栄光をもたらしている。ターボ技術のパイオニアとしてポルシェは、進化を止める事無くロードモデルに於いても現代でも更なる洗練と高性能を目指して、多くの可能性を追い続けている。今やクラッシックとなった930ボディをもつ「911ターボ」は、現代のハイパフォーマンスモデルよりコンペティションモデルとのより近しい繋がりを強く感じさせながら、ターボチャージャーによるエンジン特性を魅力としながら永遠に輝き続ける存在となっている。