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メーカー
ミッション
マニュアル
グレード
ボディタイプ
外装色
ロッソ
年式
1990 年型
走行距離
24200km
乗車定員
2 名
サイズ
長 451 cm 幅 197 cm 高 116 cm
エンジン形式
排気量
4943 cc
馬力
380
トルク
48.0
車検
ハンドル
駆動区分
輸入区分
ディーラー
内装色
アイボリー
燃料区分
ガソリン
幌色

エンジンをコックピット背後に置くフェラーリ初のロードモデル「ベルリネッタ・ボクサー」は、それまでのどのフェラーリ・ロードモデルよりも長い期間生産されたモデルとなる。創業以来フェラーリの市販車はレーシング・スポーツモデルをモチーフとしながら生産されていたが、この「ベルリネッタ・ボクサー」は1970年代から投入されたマウロ・フォルギエーリ技師による180V12気筒を搭載するF1マシン「312B」のイメージを投影したモデルとなる。フェラーリ・ロードモデルはスポーツカーからF1マシンへとそのモチーフの転換を図った事になる。それは「ロードモデルには全く関心を持たない」といわれた創業者エンツォ・フェラーリの指示のもと実現されたもので「365GTB/4デイトナ」の後継車はF1と同じ12気筒搭載によるミッドシップモデルとするよう、エンツォが開発陣に指令を出した事が話の始まりといわれている。それを受けた開発陣はフェラーリ・ロードモデルとしての運動性能確保の為、ショートホイールベースは欠かせない条件のもと、居住性にもエンツォは妥協を許さなかった。エンジン単体で全長70cm、クラッチハウジングまで含めれば1mを超す12気筒を、普通に縦置きすればホイールベースは自ずと長くなってしまう。これらの条件を同時にクリアするのは、困難を極めた。この難題に取り組んだのは1970年代から80年代までフェラーリ・ロードモデル開発を担当したエンジンスペシャリスト、トリノ工科大卒のジュリアーノ・デ・アンジェリスと、フェラーリ社創業開始前からエンツォのもとで働くチーフ・エンジニア、アンジェロ・ベレイを中心としたチームだった。様々なネガ要素をやり繰りする中、やっとの思いで誕生したのが特徴的な2階建てパワートレインレイアウトだった。長距離、長時間のテスト走行が繰り返されながら、何とか手懐けられた「312シリーズ」と同様の180°V12気筒パワートレインは「365GT/4BB」に搭載され、のちに排気量アップが図られながら「512BB」「512BBi」とシリーズを通して約10年間で2323台が生産された。その後継車として1984年パリサロンでデビューしたのが「テスタロッサ」となっている。数あるフェラーリ・レーシングモデルの中でも最も成功した往年の「テスタロッサ」の車名が与えられたモデルとなる。イタリア語で「テスタ=頭」「ロッサ=赤」をそれぞれ意味するワードを車名にもち、1957年〜1962年の間、カムカバーが赤く塗られた3V12気筒エンジンを搭載した「250テスタロッサ」は、1958年にスポーツカーレースにおいてマニュファクチャラーズ・チャンピオンに輝いたのをはじめ1959年にはセブリング12時間レースに勝利を挙げるなど、フェラーリに輝かしい戦績を残したモデルとなっている。その名前を引き継ぐのに相応しい実力を持った、当時の12気筒搭載のフラッグシップとなり、そのエンジンのカムカバーもまた赤く結晶塗装が施されている。主要なメカニカル・コンポーネンツのレイアウトはBBからの流用とされたが、BB設計時に弱かった空力性能を新設されたピニンファリーナ社の風洞設備を活用し、時代に先駆けた高い空力特性を確立しCd0.36に加え、リフトに関してもフロント0.01、リア0.1という優れた数値を実現している。特徴的な5本の水平フィンに覆われた、大型のサイド・エアスクープはF1マシン「312B」や「312T」と同じくリア・サイドにマウントされたラジエーターに空気を送る為のもの。フロント・ラジエーターだった「BB」では、その熱によりコックピット環境に影響を与え、ラゲッジスペースの確保もままならなかった。「テスタロッサ」ではラジエーターを移設することで、フロントに180のラゲッジスペースを確保するとともに、熱に影響されないコックピット環境に改めコンフォート性能を充実することに成功している。フロントエアダムに残されたエアダクトは、オートマチックエアコンのコンデンサーとフロントブレーキ冷却用として活用されている。1984年パリサロンでデビューした「テスタロッサ」のボディデザインは古くからフェラーリ・ロードモデルを手掛けてきたカロッツェリア・ピニンファリーナ社によるもの。「ディーノ」「デイトナ」「BB」と、そのデザインに手腕を振るったレオナルド・フィオラバンティが推すサイドラジエーター案を元に、安全性と個性を極めるボディデザインを施したのはディエゴ・オッティナだった。ピニンファリーナ50周年を記念し発表された4ドア・フェラーリのコンセプトモデル「フェラーリ・ピニン」やポップなデザインの「プジョー104プジェット」「ランチア・ヒット」などをデザインした人物となる。「テスタロッサ」の幅広のリアセクションが波打つようにフロントへ流れ、ボディ前後のマスが特徴的なボディサイドのルーバーを備えた大型のエアインテーク付近で交差するデザインは、パリサロンで発表されると混乱と困惑を持って迎えられるが、次第に評価され始める。結果的に「BB」の抑揚の効いたクラシカルなデザインに対し、世代交代とも言うべきモダンで新しい時代を感じさせるフェラーリ・ロードモデルを代表するデザインとなった。「テスタロッサ」のシャーシはそれまでのフェラーリ同様に、長らく用いられてきたクロモリ鋼管による、チューブラーフレーム構造により、高い剛性と軽さを確保している。ボディパネルはアルミ製となり、製造はスカリエッティ社で行われる。搭載されるエンジンはコックドベルトにより駆動される、基本的にはBBから引き継がれたF113A型とよばれるオールアルミ製180°V12気筒DOHC48バルブエンジンとなる。「テスタロッサ」に搭載されるにあたり、新調されたのは各気筒4バルブ化されたシリンダーヘッドとなり、排気バルブには、ガスタービンのブレードなどに使用される高熱に強いニッケル合金「ニモニック」が採用されている。今回入庫した最終モデルとなる1990年式日本仕様の燃料供給は片バンクずつ2つのボッシュ製KEジェトロニックを装備する。初期モデルが装備したKジェトロニックにECUと各種センサー類、空燃比調整用のプレッシャーアクチュエーター、燃圧を安定・維持させるプレッシャーレギュレーター等を追加したKEジェトロニックは1989年式から採用され、それまでのKジェトロニックモデルよりエンジン調整が容易となる。エンジン型式もF113B型となり、点火装置は、高精度のマレリ・マイクロプレックスが装備されている。ボア×ストロークは82mm×78mmでシリンダーにはニカシル・コーティングが施されている。総排気量4943ccで圧縮比9.2と数値的には「BB」と共通となるが、軽量化技術の進化にともないエンジン単体で20kgの軽量化が実現されている。日本仕様では最高出力380馬力/6800rpm、最大トルク48kg/4500rpm(ヨーロッパ仕様はそれぞれ390馬力/50.0kgm)を発揮し「BB」より約50馬力の性能アップがはかられた。パワーアップにともない、クラッチディスク径は1インチアップして9.5インチと大径化された。「BB」と同様、エンジンの下にフェラーリ自製の5速トランスミッションとLSD付きディファレンシャルを配置する。マラネロの工場で手組みにより作製されるこのパワートレインは、サスペンションユニットとブレーキユニット、マフラーとともにサブフレームに組み込まれ、テスタロッサ本体のチューブラーフレームにボルトで剛結されている。足回りは、フロント・リアともにダブルウィッシュボーン式となり共にスタビライザーを備える。またフロントに1本、リアに2本ずつのコニ製ショックアブソーバーが採用されている。ブレーキは、フロントに309mm、リアに310mm径のベンチレーテッドディスクを装備し、それぞれATE4ポッドキャリパーが組み合わされている。ホイールはスピードライン製(OZ製もあり)となりフロント8J×16インチ、リア10J×16インチサイズとなりセンターロック式が採用された初期モデルに対して1989年式から5スタッド式に変更された。組み合わされるタイヤは初期モデルのミシュランTRXのミリサイズ表示から、より一般的なフロント225/50VR16、リア255/50VR16サイズとなっている。インテリアはエクステリアと並びBBから大きく変化したエリアとなる。伝統のコノリーレザーに覆われた、モダンなコックピットは、スポーツカーらしくスパルタンなつくりとなっていたBBから、コンフォート志向にシフトしグランツーリスモともよべるものになったといえるだろう。ホールド性の高いシート背後には、カバンなどを置ける比較的広いラゲッジスペースが新設され、リアウィンドウがヘッドレストから、より後方に配置されるようになったので、室内空間にゆとりが感じられる。またフロントボンネットの下にも180のトランクスペースが新設されている。細身のMOMO3スポークステアリングのむこうにはメータークラスターが備わり、フェラーリのフラッグシップらしく大径のフルスケール320km/h迄のスピードメーターと、6750rpmから波線表示となる1rpmまでのタコメーターがおさまる。2つのメーターの間には小径の油圧と水温計、更にシフトレバー前方のセンターブリッジには油温と燃料計、デジタル時計が配置されている。メーター類のレタリングはオレンジ色が採用され、全てヴェリア製となっている。フェラーリ・ロードモデルならではのメッキを施したゲートをもつ丸いノブを装備したシフトレバーが備わるセンターコンソールには、空調系のノブやバースイッチが配置され、スマートなデザインと色使いにより新しさを感じられるエリアとなっている。ホイールベースに対して前寄りのドライビングポジションとなることで、コックピットの足元にはタイヤハウスが張り出しペダル類は右側、車体中央よりにオフセットされたものとなる。パーキングブレーキレバーは、ドライビングシートの外側、ドア寄りに配置されフライオフ式が採用されている。全長×全幅×全高は4510mm×1970mm×1160mm、ホイールベース2550mm、トレッド前1518mm、後1660mm、車両重量1660kg。前後重量配分40:60、燃料タンク容量1151984年〜1990年の間に生産台数7177台を記録。新車時ディーラー価格は2430万円となる。メーカー公表性能値は、0100km/h加速5.8秒、01000m加速24.1秒、最高速度290km/hとなっている。カーグラフィック誌による実測データは、日本仕様による1986年の計測データで、0100km/h加速6.0秒、0400m加速13.8秒、01000m加速24.8秒。最高速度は275.2km/hとなっている。「テスタロッサ」のドアを開く為のドアハンドルは、ボディ表面に見当たらない、ホンの少しでも空力を良くしたかった為だろうか。ドアにあるキーホールの丁度その下あたり、サイドフィン上部の内側に付けられている。広いサイドシルをこえてドライバーズシートに腰を下ろすと、その目線の低さに驚くかもしれない。これが当時のフェラーリの着座位置となり、その直系となるF1マシンをイメージさせるところとなっている。キーを差し込みスターターを回すとフェラーリならではのクゥーッというスターターの連続音に続いて、エンジンが始動し低い唸りのアイドリングが始まる。インジェクション装備となったフェラーリ12気筒の始動は劇的に確実となり、手間のかからないものとなった。中央よりに配置されたABCペダルの、クラッチペダルは軽めとなり、丸いシフトノブをゲートに沿って1番左の列の手前、1速に入れゆっくりとクラッチをエンゲージすればアイドリングのままでもスタート出来る。5エンジンの低回転域のトルクは充分となり、低い目線からでも視界は開けているので広がったリアフェンダーや長めのフロントオーバーハングさえ気をつければ、街中での走行も苦にはならない。フェラーリのギアボックスが温まるまでは2速は抵抗があって入らないので、1速から3速につないで、焦らずに11のエンジンオイルが機能するまで暖気運転をするのが良いと思う。スピードが少しでも出ていれば、ノンパワーのステアリングも適度な重さとなる。エンジン回転数を上げずに走らせていると、エンジン音は低く重たいものに感じられる。それが3500rpmを過ぎるあたりから、徐々に力強さを漲らせた音に変化する。そして5000rpmを超える頃には音質が揃いながら澄んだ音色になり始める。そこからレッドゾーンに差し掛かるまで、この世のモノとは思えないミュージックとよばれる程のサウンドが味わえる。「テスタロッサ」のエンジン音は誰をも魅了する自動車界の世界遺産といえるもので、この音を聴く為に全てのパーツが存在し、速さやデザインはその音に含まれる要素といっても過言ではない。しかしレーシングカーメーカーが製造するだけあってワインディングロードにおいての楽しみも疎かになってはいない。その中でも長くデザインを担当してきたピニンファリーナ社のデザインは前方はもちろん、斜め後方や後、またミラーによるチェックもしやすく古くから思いの外、車両感覚は掴みやすく出来ている。ステアリングレシオはそれ程クイックでは無いが、全ての操作系はフェラーリ伝統の頑強なクロモリフレームに直結していて剛性感あふれるフェラーリならではのドライビング感覚と忘れ難い味わいを持っている。強力なダンピングを駆使して走り抜けるワインディングロードでは2速と3速を使い分け12気筒のミュージックを存分に響かせ、堪能する事が出来、クルマ好きの悦楽のひとときとなる事だろう。「フェラーリ・テスタロッサ」はこの後も「512TR」「F512M」と進化を続け長期にわたり生産されたモデルとなった。その間カリスマ創業者を失い、その後を「312T」でフェラーリチームをF1コンストラクターズ・チャンピオンに導いた、ルカ・ディ・モンテゼーモロが引き継ぐまでの不安な空気の中、フェラーリの看板を支え続けたモデルでもある。エンツォ・フェラーリが自らの指示により理想を具体的に形にした「ベルリネッタ・ボクサー」シリーズの到達点ともいえる「テスタロッサ」は、今に続くフェラーリ・ロードモデルの中で高い威厳と商品性を併せ持つ、最もフェラーリらしいモデルだったと言えるかもしれない