アストンマーティンV8ヴァンテージ
スポーツシフト
︎アストンマーティンの創業者のひとりライオネル・マーティンは、オックスフォード大学自転車クラブ時代に、同じく自転車愛好家であった、もう一人の創業者となるロバート・バムフォードと知り合う。1913年に二人は、自転車やエンジン付き自転車の為のワークショップ「バムフォード&マーティン」社を設立、やがてオリジナルのオートバイを製作してレースに参戦しながら、シンガーという英国車の販売も手がける様になる。1914年、シンガーをベースにコヴェントリー・シンプレックス製の1394ccの排気量をもつ4気筒サイドバルブエンジンを搭載した最初の一台が製造されるとライオネル・マーティンのドライブで、バッキンガムシャー州のアストンクリントンで行われたヒルクライムレースに参戦、見事に優勝を果たす。その地名から「アストン」とドライバーの「マーティン」を組み合わせて、この最初に作られた一台を「アストンマーティン」の車名で登録。この経験を活かして翌年にはシャーシナンバー「A1」をもつオリジナルモデルが完成し、当時のイギリスの家庭にあった「コールスカトル=石炭入れ」に似たボディデザインをもつ事から、親しみを込めてこの愛称でよばれるモデルとなる。第一次世界大戦をはさんで「バムフォード&マーティン」社は、ルイ・ズボロウスキー伯爵の資金援助を受けレースへの出場を目的とした1.5ℓ・ツインカムエンジンを搭載したレースカーを作製する。ズボロウスキー伯爵のドライブで数々のレースに参戦をする中で、創業者の1人ロバート・バムフォードは1920年に会社を去り、1924年にはイタリアのモンツァでズボロウスキー伯爵をレース中の事故で喪う。後ろ盾を失った会社は管財人の手に渡り、ライオネル・マーティンも1925年に会社を辞する。創業者の二人が居なくなった会社は、1926年に新たにチャーンウッド卿の資本と、ビル・レンウィックとアウグスト・チェザーレ・ベルテッリの経営により「アストンマーティン・モーターズ」と社名を変更し継承されフェルサムに移転。エンジニア兼デザイナーだったベルテッリにより1927年、新たにSOHC・1.5ℓエンジンを搭載するレースカーが作られる。翌年のル・マンでは完走こそ果たせなかったが、このワークスカーをベースとするロードモデル「インターナショナル」を市販している。そして全車リタイアに終わった1934年のル・マンに参戦したマシンのカラーリングを、ブリティッシュグリーンからダークレッドに塗り替えて挑んだ、北アイルランドのアーズ半島に位置するアルスターで行われたRACツーリスト・トロフィー・レースでは、参戦した3台が1位から3位迄を独占。これを記念して「アルスター」の車名を冠したスペシャルモデルをひと月後のアールズコートショーで発表する。翌年1935年にはル・マンにリベンジ参戦したレースカー「LM20」が、クラス優勝と総合3位という結果を得るに至る。レース活動とは裏腹に経営状況が安定しない中で1936年になって「アストンマーティン」の経営権は、造船会社を所有するサー・アーサー・サザーランドに移り、会社の経営方針はレースカー製作より収益の見込める高級スポーツモデルの開発に専念する方向へと転換していく。モータースポーツへの参戦を中止し、熟慮の末にサザーランドは原子を意味する車名「アトム」と名付けた「小さく、速く、パワフル」なプロトタイプを1939年に完成させる。スチール製チューブラーフレームに、三角形のモチーフをグリルやボンネットに使った独創的なデザインをもつアルミ製のボディを架装。82馬力を発揮する1950ccの4気筒SOHCエンジンにはゼニス製キャブレターを2基装備。電磁式4段オートマチックとソールズベリー式ハイポイド・リアアクスルで後輪を駆動するメカニズムをもつ。これらの技術は当時のヨーロッパ大陸に於ける先端的なもので、フロントサスペンションにはサザーランドの考案により特許を取得した独立式が採用され、第二次世界大戦を挟んで15万kmもの試走を繰り返した。しかし大戦後に経営難に陥った「アストンマーティン」は、タイムズ紙の告知欄に「買い手求む-スポーツカー会社」という小さな広告を出すまでとなってしまう。それを見た実業家のサー・デイビッド・ブラウンは、その会社が「アストンマーティン」である事を知り驚き、ファクトリー訪問時にサザーランドと面会した際に「アトム」に試乗する。エンジンパワーは予想より大きく不足していたが、高いロードホールディング性能をもつ「アトム」を気に入ったブラウンは、1947年に経営権を獲得しニューポート・パグネルのティックフォード・ストリートに「アストンマーティン」の拠点を移転する。「アトム」に使われていたスチール製チューブラーフレームと足回りをベースに、搭載されていた2ℓエンジンにSUキャブレターを装備し91馬力までパワーアップを図る。デイビッド・ブラウン社製4速MTを組み合わせロングノーズとショートデッキによる流麗なオープンボディを架装し「2リッター・スポーツ」として1948年9月のロンドンショーで発表する。そのフロントには縦に長い形状のラジエーターグリルと左右に小さなグリルを組み合わせて配置、このデザインが後の「アストンマーティン」のアイデンティティとなる「ベーングリル」へと進化する。1950年、このモデルの後継車がサー・デイビッド・ブラウンの頭文字を使った「DB2」の車名で発表されると、遡って「2リッター・スポーツ」は「DB1」とよばれる様になる。1958年の「DB4」以降「アストンマーティン」は、イタリアのカロッツェリア・トゥーリングがパテントをもつスーペル・レッジェーラ工法による軽量なアルミボディを架装し、その生産車の全てが高性能なモデルで占められるラインナップを展開し、1959年には念願となっていたル・マン初制覇を果たす。これを機に世界最高峰のスポーツカーブランドとしての地位を確立。1964年には「DB5」が映画「007シリーズ」に起用され、スクリーンの中でも大活躍を見せる。イギリスのスポーツカーメーカーとして紆余曲折を繰り返し窮地に陥りながらも、常に「アストンマーティン」はブランドを引き継ぐオーナーに恵まれ続け、このサー・デイビッド・ブラウンが経営を担った時代にようやく黄金期を迎え現代に続く礎を築く事となる。その「アストンマーティン」のラインナップの中にあって、ひときわ高性能なモデルに与えられてきた名称が「ヴァンテージ」となる。「有利、優勢、優越」と訳されるこのワードは、1951年アールズコートショーに展示された2台の「DB2」のうちの1台に対して初めて使われている。このモデルにはル・マンで実証された、高いパフォーマンスと信頼性をもつ”特別なエンジン“が搭載され、以降スポーツカー愛好家の中で「ヴァンテージ」という名称は浸透していく。V型8気筒エンジン搭載モデルに限れば1977年2月18日にプレスリリースにより発表された「V8ヴァンテージ」に始まる。1987年にフォード傘下となった「アストンマーティン」は、翌年「ヴィラージュ」を発表、1993年に、この「ヴィラージュ」に搭載された5.3ℓ・V8エンジンにツイン・スーパーチャージャーを装備した高性能モデル「ヴァンテージ(スーパーチャージド)」がそれに続く。そして2005年3月のジュネーブショーでコンパクトなボディをもつ事から“ベイビーアストン”の愛称でよばれるエントリーモデルを発表、車名として「ヴァンテージ」が採用されている。ここで登場した3世代目となる「V8ヴァンテージ」により「アストンマーティン」は、伝統的GTを「DB」シリーズに、スポーツモデルを「ヴァンテージ」にと明確に路線を分類している様にみえる。この「V8ヴァンテージ」の登場にあたっては、2000年からアストンマーティンCEOとなったドイツ生まれのウルリッヒ・ベッツの存在が大きく関与している。ベッツは、かつてポルシェに在籍し「964カレラ」の開発を経て、BMWに移籍後「Z1」の開発にも携わった経歴をもつ。その後、再びポルシェに戻り、伝統の”空冷エンジン“をリアに搭載する最後のモデル「993カレラ」の開発でも重要な役割を担っている。その「911」を知り尽くしたベッツが、それまで噂されていたV8エンジンをミドシップに搭載した新型モデルの開発をキャンセルし、自ら「911のライバルとなるアストンマーティンを造る」と公言し、開発されたモデルが「V8ヴァンテージ」となる。このモデルは、2003年のデトロイトショーで「AMV8ヴァンテージ・コンセプト」としてプロトタイプが公開されると、その時点でおよそ3年分の生産台数に匹敵するバックオーダーが舞い込む程の注目を集めた。2001年にデビューした上級モデル「ヴァンキッシュ」や、これに続く「DB9」にも採用された”VHプラットフォーム“とよばれるアルミ製フレームにアルミ製のボディを採用。「ヴァンキッシュ」ではアルミ材とカーボンファイバー製のパーツを使い、ハイブリッド構造で構成されていたフレームは「V8ヴァンテージ」ではアルミ材の”プレス成形/精密鋳造/射出成形“を使い分け、セルフピアスリベットと航空宇宙用接着材により組み上げられ、軽量・高剛性を両立している。それを主張する様にエンジンルームのサスペンションタワーの頂点とバルクヘッドは、アルミ製の構造材で結ばれ、加えてタワーバーによる補強も加えられている。また同様にCピラーとリアバルクヘッドを結ぶアルミ材がキャビン内にも露出し存在感を示している。この”VHプラットフォーム“は「DB9」と「ヴァンキッシュ」用は、ウォーチェスターに本拠地を置くハイドロアルミニウム社で製造され「V8ヴァンテージ」用は自社製造とされている。部品点数150点からなる「V8ヴァンテージ」用のフレームは重量は僅か183kgを実現。このフレームを覆うボディデザインは、ジャガーに移籍したイアン・カラムの後任となる「BMW Z8」をデザインした経歴をもつヘンリック・フィスカーによるもので、素晴らしくアグレッシブで、どこから見ても「アストンマーティン」らしいスポーティが表現されたものとなる。特徴的なグリルから続く長いボンネットと車体後方にコンパクトにまとめられたキャビンを経て、リアのリップスポイラーまで全く緊張感の途切れないフォルムが再現されている。1958年に登場しスタイリングに高い評価を得た「DB4」以降、「アストンマーティン」のトレードマークとなるホイールアーチ後方のエアベントも、ボディサイドを走るシャープなアクセントラインと融合し、歴代モデルの中でもハイレベルなまとまりを感じさせる。どこから見ても「アストンマーティン」らしさがあふれる「V8ヴァンテージ」の為に発表当初、同じフォード傘下となるジャガー製「AJ-V8」エンジンをベースに、その8割のパーツを見直す事で4.3ℓ・380馬力を発揮するエンジンを開発。このエンジンをフロントミドシップでバルクヘッド寄りに低く搭載、トランスアクスル方式のFRとしてターゲットとしていた「ポルシェ911」に迫る高い性能を発揮するモデルとして仕立てている。発表から一年後の2006年には、アルミ製プラットフォームを強化したオープンモデル「V8ヴァンテージ・ロードスター」をラインナップに加え、続く2007年には「アストンマーティン」のモータースポーツ活動を支援する英国のレーシングコンストラクター・プロドライブ社が開発した2ペダル式のセミATとなる”スポーツシフト“がオプション設定されている。︎「V8ヴァンテージ」の誕生に大きく関わる「アストンマーティン」CEOだったウルリッヒ・ベッツは、その経歴を含めて自動車業界の”カーガイ“としても知られ、2008年5月には65歳でレーシングドライバーとして自らステアリングを握り「ニュルブルクリンク24時間レース」に参戦。「V8ヴァンテージ」をベースとするレースカー「V8ヴァンテージN24」をドライブしてクラス3位に入賞を果たす。この時エントリーした”SP8クラス“では「V8ヴァンテージ」が、ベッツの3位を含めて1〜3位までを独占し、そのポテンシャルの高さを見せつけると同時に社内の士気を大いに高めた。「アストンマーティン」は、このころ、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェのすぐそばに市販モデルやレース車両の為の開発拠点を設立し、これを利用して本気でラインナップモデルの強化・充実に取り組む姿勢を見せている。そして10年が経過した2018年には、そこは「アストンマーティン」の高性能サブブランドとして立ち上げられた「AMR」の「AMRパフォーマンスセンター」として拡張と改称が行われ活用されている。2008年の「ニュルブルクリンク24時間レース」でのクラスウィンを含む活躍を記念して、搭載する4.3ℓエンジンを400馬力/42.8kgmまで出力/トルクを強化したモデル「V8ヴァンテージN400」として240台が限定販売される。このモデルに続いて、2009年モデルからはボディデザインを維持したまま、新デザインの19インチ・ホイールを採用し、ルーフ後端のロッドアンテナをウィンドウ貼り込み式に改め、各部ブラッシュアップが図られリニューアルされた「V8ヴァンテージ」が登場。最大の変更点は、排気量が拡大されパワーアップされた4.7ℓエンジンに換装されたこととなるが、それに伴い足回り、ギアボックス、更にはインテリアにも手を加えられる程のビックマイナーチェンジが施され、大きく進化し生まれ変わったモデルとなっている。︎そのモデルが今回入荷した「V8ヴァンテージ スポーツシフト」となる。搭載されるエンジンは2005年の発表時から進化を遂げ、排気量アップが図られたオールアルミ製・水冷V型8気筒DOHC32バルブで、吸気カムシャフトには可変バルブタイミング機構を装備する。それまでの89mm×86mmから、ボア×ストロークは91mm×91mmまで拡大、スクエアな燃焼室をもち排気量は4278ccから4735ccへと拡大されている。変更にともないリニューアルされた鋳造アルミピストンと鍛造コンロッドを採用し、2mm拡大されたボア径にあわせて吸気バルブも34.9mmから35.9mmへと拡大されている。マルチポイント式シーケンシャル電子制御燃料噴射装置を装備し、4.3ℓエンジンと共通となる11.3の圧縮比から、最高出力426馬力/7000rpmと最大トルク47.9kgm/5750rpmを発揮する。457ccの排気量アップから、出力で11%、トルクで15%の向上を遂げているが、クランクシャフトの形状変更やドライサンプシステムの見直しによりオイル潤滑の効率が高められ燃費も向上、CO2排出量も削減されている。ほぼ別物のエンジンへと進化したこのエンジンの単体重量は4.3ℓエンジンと同等の220kgを維持している。開発責任者のデイビッド・クロスによればニュルブルクリンク・ノルドシュライフェに於けるラップタイムは、4.3ℓモデルの8分5秒から、7分55秒へと大幅に短縮されているという。ドライサンプ式のコンパクトなV8エンジンをバルクヘッド寄りに低くフロントミッドシップ方式で搭載し、組み合わされるトランスミッションはトランスアクスル方式でLSD(加速側10%、減速側30%のロッキングファクターに設定されている)を装備するリアデフの直前にレイアウトされている。このギアボックスは、6MTモデル、”スポーツシフト“モデル共に、イタリアのグラツィアーノ社製の6速トランスミッションを採用し、エンジンとはアルミキャスト製のトルクチューブと、その中を通る軽量なカーボンファイバー製のプロペラシャフトで結ばれている。今回入荷した2010年型「V8ヴァンテージ スポーツシフト」に搭載される”スポーツシフト“は、イタリアのマニエッティ・マレリ社製の油圧アクチュエーターを使ってクラッチの断続やギア・チェンジを行い、それを電子制御する2ペダル式のセミ・オートマチックシステムとなる。搭載するにあたり英国のレーシングカーコンストラクター及び高性能エンジニアリング企業として名高いプロドライブ社が、レース活動からのノウハウを活かしてシステム開発に深く関与したものとなっている。また4.7ℓエンジンに換装されるにあたり、それぞれの変速システムに共用されるクラッチやフライホイールには軽量化が施され、ギアボックスにも強化と改良の手が加えられている。センターコンソールの「D」ボタンを押すことで、自動変速によるATモードとなり、ステアリング裏側の左右に装備されるシフトパドルによる任意のシフトチェンジも可能となっている。シフトアップ時には僅かにアクセルを緩める事で、よりスムーズなギアチェンジを可能とし、コーナー手前などでのシフトダウン時には瞬時に自動でエンジン回転数を合わせる為のブリッピングが行われ、リズミカルにギアを落とす事が出来、スポーツ走行が楽しめる装備となる。また”スポーツシフト“によるギアチェンジは、他のオートマチックシステムに比べ、エンジンのキャラクターとダイレクトなギアチェンジを味わえるもので、ドライバー自らがクルマを操作する感覚がMTに近いところが特徴となっている。︎足回りは、アルミ鍛造製のアーム類を惜しみなく使った、前後ダブルウィシュボーン式となり、ハブキャリアもアルミ製が採用され高い剛性と軽量化に配慮された設計となっている。4.7ℓエンジン搭載を機にダンパーはカナダのマグネティック社製からビルシュタイン社製に変更され、コイルスプリングのレート値はフロントで11%、リアで5%強化することで、以前よりしなやかな乗り心地と高い旋回性を両立している。また、アッパーマウントやバンプストップラバーは「ロードスター」登場時に改められた改良型が採用されている。ブレーキはフロント/リアともに4ポッド対向キャリパーとスリット入りベンチレーテッドディスクが組み合わされABSを装備。4.3ℓモデルではオプション扱いだった19インチ径のホイールを標準装備、フロントは8.5J×19、リアには9.5J×19サイズが採用され、組み合わされるタイヤサイズは、前後それぞれ235/40ZR19、275/35ZR19となっている。︎鈍く光るアルミ製のオーディオやエアコンのダイヤル類が並ぶセンターコンソールと、独立したメータークラスターをもつインテリアは、ビックマイナーチェンジによりデザインが一新され、上級モデルの「DBS」に倣ったものとなる。それを象徴するのが、センターコンソール中央にレイアウトされたエモーショナル・コントロール・ユニット(ECU=Emotional Control Unit)とよばれるスマートキーのスロット。ダッシュボードはじめ、自動調整式となるサポート性の高いバケットタイプのシート、ドアトリムには上質な本革がふんだんに採用され丁寧なステッチで仕上げられている。このインテリアへのこだわりはグローブボックスにまで及び英国クラフトマンシップが細部まで宿った贅沢なキャビンとなり、スポーツカーらしく適度なタイト感をもちながらも、シート後方にはラゲッジスペースとして有効なエリアも確保されている。裏側左右にシフト用パドルを装備するステアリングを通して対面するメータークラスターには、左側に330km/hまで刻まれたスピードメーター、右側には通常とは逆回転となる8000rpmまでのレブカウンターを装備。センターコンソールの左下には、スプリング機構によりポップアップする”ラミー製の特注ボールペン“を装備する。これは上級モデル「DBS」では「ADS(アダプティブ・ダンピング・システム=可変ダンパー)」のスイッチがレイアウトされるエリアに、コンベンショナルタイプのダンパーを装備する「V8ヴァンテージ」用にギミックとして装備されるもので、英国スポーツカーメーカーの遊び心が感じられる貴重なアイテムとなる。ハッチゲートの下には二人で小旅行に出るのに不自由の無い300ℓの容量をもつ荷物スペースが確保されている。︎全長×全幅×全高は4380mm×1865mm×1255mm、ホイールベースは2600mm、トレッド前1570mm、後1560mm、車両重量は1660kgとなっている。前後重量配分は49:51、燃料タンク容量は80ℓ、V8ヴァンテージ スポーツシフトの新車時販売価格は1609万円、同・6MTモデルは1554万円(2008年12月)となっている。︎メーカー公表性能値は、0→100km/h加速4.8秒、最高速度290km/hとなる。カーグラフィック誌による実測テストでは、0→100km/h加速4.8秒、0→400m加速12.9秒、0→1km加速23.3秒、最高速度250km/h以上を記録している。︎「V8ヴァンテージ」は、ひときわコンパクトで凝縮感をもつスポーティなフォルムを特徴としている。「アストンマーティン」他車と共通のシルエットをもつこのモデルのサイズ感は、画像からは伝わりにくく細部まで作り込まれた緊迫感が漲る造形は実車を目の当たりにすると際立って見える。フロントボンネットの先端にレイアウトされる「アストンマーティン」のエンブレムは、”飛翔するスピードの象徴“として「ASTON MARTIN」の綴りをウィング状にデザインしたものから1932年に羽毛が描かれた現在のイメージに近いデザインへと変更されている。「DB9」と同じポップアップ式のドアハンドルを引くと、サイドシルには「Hand build in England」の文字がレイアウトされたメタルプレートが目に入る。スワンスウィングドアとよばれるやや上方へと開くドアにより、低めに配置されたシートへのアクセスは容易とされ、腰を下ろすと低い目線から見えるキャビンには、高い品質とGTというよりリアルスポーツモデルの様なタイト感が漂う。センタートンネルのサイドに位置するシート調整スイッチで、ドライビングポジションを確認し、スマートキーのECUをセンターコンソールのスロットに押し込む事でエンジンが始動する。華やかなイタリア車とも機能的なドイツ車とも異なる、英国車特有の深みを感じさせるエンジンサウンドがキャビンまで聞こえてくる。センターコンソールの「D」ボタンを押してゆっくりとアクセルを踏み込むと、クラッチが自動でエンゲージして車両は動き出す。「スポーツシフト」を備えるこのモデルは、トルコン式ATとは異なり、マニュアルギアボックスと同様にクラッチを操作するイメージでアクセル操作することでドライブする楽しみがより深まる。発進時にクラッチがエンゲージするタイミングで、アクセルをホールドしたり、シフトアップ時にアクセルを一瞬、緩める事がポイントで車両の動きはスムーズさを増し、エンジンとの対話の瞬間が生まれる。「D」モードでは車速に応じて自動的にギアチェンジが繰り返されるが、ステアリング裏面に備わるシフトパドルを使った任意のシフトチェンジも可能となっている。タウンスピードに於いても高いボディ剛性と手を加えられた足回りにより、滑らかさを増した良好な乗り心地を示す。ステアリング・フィールは、フロント・サスペンションのロアアーム・ブッシュが22%強化された事が好影響をもたらし、更なる洗練を感じさせるものになっている。エンジンは1700rpmあたりからパワーを漲らせ始め、3700rpmからは上では迫力ある加速を発揮する。バルブタイミングが変化する4750rpmを迎えると、急激にサウンドがクリアになり刺激的な咆哮を伴いながら、リミッターが働く7300rpmを目指して軽快な吹け上がりを見せる。エンジンパワーもこの領域が最も強く感じられるものとなるが、低回転域のトルクにも全く不足は感じられない。高速走行に於いての直進安定性は高く、空力付加物を持たないボディでも高い速度域になるほどに安定感を増し、風切り音も上手く抑制されている。ワインディングロードに乗り入れると、基本的には弱アンダーステアを保ちながらFR車らしい安定感のある前後バランスを見せてくれる。特徴的なのは、素早いステアリングの切り返しにも鋭くリニアに車両が反応することで、その旋回速度はとても高くレーシングカーの様な繊細なコーナリングが堪能出来る。後輪近くにヒップポイントを置く事で、リアタイヤのトラクションもダイレクトに伝わってくる。また、こういう場面でも制動力に優れる頼れるブレーキは、サーボアシストが軽くコントローラブルなセッティングが強調され、痛快なドライビング感覚をより際立たせるものとなる。「911」を知り尽くしたウルリッヒ・ベッツにより開発された「V8ヴァンテージ」は、高性能モデルの長い歴史をもつ「アストンマーティン」のラインナップの中にあって、スポーティカーというよりリアルスポーツとしてその名を刻むモデルとなり「911」をライバルと呼ぶに相応しい日常性と高性能を内包している。この「V8ヴァンテージ」の魅力は一体感と繊細さをもつドライビング感覚、そして高い品質と何処か華やいだ雰囲気を感じさせるところといえるだろう。「ポルシェ911」ほど生産台数が多く無いところも大きな「アドヴァンテージ」となるのかもしれない。